偶然より運命
「あ」
偶然、カカシと会ったイルカは声を上げた。
出会った場所が意外なところだったかもしれない。
「ああ、イルカ先生」
イルカの声を聞きつけたのかカカシが振り返った。
「こんにちは」
微笑む顔は優しい。
「・・・こんにちは」
「こんな場所で、どうしたんですか」
カカシは気さくに話しかけてくる。
「え・・・。あ、任務で」
「ですよね」
イルカの答えにカカシは肩を竦めた。
「任務以外で、こんな場所にいませんよね」
こんな場所。
木の葉の里から遠く離れた森の中だった。
「俺はこれから帰るところですがイルカ先生は?」
「俺もです」
「じゃあ、一緒に帰りましょうか」
断る理由もないのでイルカは了承した。
一人で帰るよりも二人で帰るほうが何かと利便性がある。
それに同じ里の忍なら警戒する必要もない。
里までの距離はかなりあるので森の中で一泊だ。
野宿くらいなんでもない。
夜の闇の中で一点の火が灯っている。
焚き火を囲んでカカシとイルカが座っていた。
二人は言葉少なではあったが、ぽつりぽつりと話をしている。
思えばカカシは上忍で現在、下忍の子供を指導、その下忍の子たちはイルカがアカデミーで指導していた。
上忍師とアカデミーの先生という間柄だった。
「引継ぎ以来、慌しくて話す機会がありませんでしたね」
「カカシ先生はお忙しい方ですから」
本心からイルカは、そう思っている。
カカシ先生と呼ぶのは上忍師としてのカカシを呼ぶ子たちの呼称を真似していた。
「今だって上忍師としての傍ら、単独での任務もしていらっしゃる」
「・・・余裕があればですけどね」
今は上忍師として、いっぱいいっぱいですよとカカシは謙遜した。
「そんなことないですよ。カカシ先生と話す機会はありませんでしたが下忍の子たちから色々と逸話は聞いています」
いつも読んでいる本があるそうですね、年齢制限ありのとイルカは茶目っ気を出した。
てっきり不謹慎だと怒られると思ったのだが、アカデミーの先生といっても真面目なだけではないらしい。
「そうですねえ」
あっさり交わしたカカシは軽く反撃してみた。
「今度、お貸ししましょうか、本」
そう言うとイルカは赤くなる。
「・・・結構です」
意外に純情らしい。
素直な反応にカカシは目を細めた。
「そうだ」
カカシは思い出した。
腰のポーチにあるものが入っている。
「これ、食べませんか」
出したのは甘い香りのする塊りだった。
塊りは二つで銀色の紙に包まれている。
「チョコ?」
「そうです」
チョコなどの甘いものは、ちょっとした疲労回復のために任務の際に持ち歩くことが多い。
「食事の後のデザートでもないですけどね」
既に食事は手持ちの携帯食で簡単に済ませていた。
「ちょうど二つあったので」
味気ない食事の後には、ちょうどいいかもしれない。
「いただきます」
礼を言ってからイルカはチョコを受け取った。
かさりと音と立てて銀紙を開けると黒くて丸いチョコが現れる。
口の中に入れると、ほろ苦く融けていく。
最後に甘さが残った。
カカシを見ると、やや顔を顰めている。
不思議に思っていると「甘いものは苦手なんです」と苦笑された。
「イルカ先生は?」
甘いものは好きですか?と問われてイルカは頷いた。
「どちらかといえば好きですね」
「そうですか」
笑ったカカシと目が合った。
「今日は二月十四日でしょ」
囁くようなカカシの声が風に乗って聞こえてくる。
「イルカ先生にチョコを渡そうと思っていたんです」
何しろ、とカカシが頭を掻いた。
「まさか、この年で一目惚れを経験するとは思いませんでした」
しかも初恋だなんて、と頬を染めている。
「今日、会えて良かった」と、ほっとしたように笑っている。
カカシ先生は何を言っているんだろう・・・。
遠くからカカシの声が聞こえてくるような錯覚にイルカは襲われる。
言葉は聞こえているけれど本能が理解することを拒んでいた。
二月十四日は好きな人にチョコを渡して思いを告白するという風習がある。
もしかしてチョコを食べてはいけなかったのか・・・。
ふとカカシを見ると優しい目でイルカを見ていた。
森の中でイルカはカカシと二人きりだった。
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