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薔薇色の日々



「ああ・・・」
悲しそうなカカシの声がした。
否、悲しい声がした。
「終わってしまった、黄金週間・・・」
切ない響きを含んでいる。
黄金週間とは暦の上での四月末から五月の頭くらいにある大型連休のことを指す。
「俺もイルカ先生とお休みしたかった・・・」
その頃、カカシは任務を振り当てられて里の外の、これまた遠方へと赴いていた。
「あーあ・・・」と溜め息を一つ落とす。
「黄金週間といっても」
傍で聞いていたイルカの声は素っ気無い。
「とっくに終わったじゃないですか」
一週間も前のことでしょう、それは。
休みなぞ終わってしまえば、すぐに忘れてしまう。
どちらかというとイルカは休み前のワクワク感が大好きで終わってしまえば、さっと気持ちを切り替えるタイプだ。
「それに連休なんて他の月にもありますし」
黄金週間は来年も再来年も、ずっとあるじゃないですかとカカシを慰めるように言うとカカシは小難しい顔をした。
「それは最もですけどね」
やや不満そうだ。
「俺にとっては来年の黄金週間も他の月の連休もイルカ先生と一緒でなければ意味がないんですよ」
一緒に休みを過ごしたい。
二人きりで。
それがカカシの望みである。
「そうですねえ。そうできたらいいんですけど」
イルカは苦笑する。
それから優しい顔になった。
「一緒に休むのも、とても魅力的ですけど」
優しい黒い眼がカカシを包み込むようにカカシを見つめる。
「俺はカカシさんといられれば、それだけで」
いいんですと、はにかむ。
「イルカ先生・・・」
イルカの優しい心が伝わったカカシは感動したように声を震わせた。
「嬉しいです。俺もイルカ先生といられれば、それだけで」
眼と眼が見詰め合う。
視線が絡み合う。
穏やかな空気が二人の周りに漂う。
心なしが二人の空間に色が見えた。
ときめくような甘い色が。



「あー・・・。ゴホンゴホン、ゴホン。あーあーあー」
ワザとらしい咳払いと声がした。
「何ですか、綱手さま」
カカシが、ものすごく嫌そうな顔になる。
「俺とイルカ先生の邪魔しないでもらえます?」
「それは、こっちが台詞なんだが」
五代目火影の綱手の顔が引き攣っている。
カカシとイルカがかいわしていたのは火影の執務室で、そこには二人以外にも人はいた。
「そっちこそ仕事の邪魔するな、カカシ」
「えー」
「あ、すみません」
イルカが止めていた手を再開させて書類の整理と確認を始める。
「仕事の途中でした」
再度、謝ってから手際よく迅速丁寧に黙々と仕事を片付けていく。
同じ部屋にいた綱手のお付きのシズネとよく仕事を手伝っているコテツとイズモは苦笑いだ。
「二人のことは二人だけの時にやれ」
文句を言いながら綱手は書類に目を通し、判子を押した。
どん、と音を立てながら朱色の火影の印を押していく。
「だいたいなあ、こちとら、その黄金週間とやらかの仕事がまだ続いていて終わってないんだぞ」
とても忙しそうな綱手だ。
手伝っている面々も無駄なく忙しなく動いている。
「今日だって休みなのにイルカに来てもらっているくらいなんだからな」
ちらとカカシに視線を送り、一瞬だけ睨みつける。
「なのに、カカシもおまけでくっ付いてきたと思ったら少しも手伝いもしないで見ているだけだし」
どっちかっていうと邪魔している、と綱手は苦々しい顔になる。
「邪魔するなら帰れ、カカシ」
「えー、やーですねー」
ふいとカカシは、そっぽを向いた。
「今日は折角の休みでイルカ先生とゆっくりできると思ったら綱手さまの招集でイルカ先生が呼び出されて」
カカシも苦々しい顔になる。
「綱手さまの方こそ俺たちの邪魔してますよー」
口調はのんびりしているが不満がバリバリと出ている。
一応、カカシとイルカは恋人関係で公にはしていないが隠してもいない。
「カカシ・・・」
「何ですか・・・」
綱手とカカシの視線が真っ向から、ぶつかり火花を散らしている。
バリバリバリ、バチバチバチ。
触ったら火傷しそうな勢いで。



「はいはい、そこまでにしてください」
シズネの、のんびりした声が二人の争いを終わらせた。
「まだまだ仕事はあるんですから」
にこーっと綱手に笑いかける。
「そんなことして遊んでないでくださいね」
どさっと山となった書類が綱手の目の前に置かれた。
「これ、今日中に終わらせてくださいねー。あ、今日中ってのは明日の朝までじゃなくて今日の深夜の二十三時五十九分五十九秒までですよー」
シズネの眼が笑ってない。
顔は、これでもかってほどの笑顔ではあったが。
「お解りになりましたか、綱手さま」
「・・・・・・・・・・・・はい」
「じゃあ、さっさと仕事やってください」
棒読み口調の声。
お目付け役のシズネは普段は優しくにこにこしているが、いざとなったら怖い。
怖いというか恐ろしい。
その本領が今、発揮されていた。
「カカシさんも」
その本領はカカシにも向けられた。
「邪魔するなら帰ってくださいねー」
眼が笑ってない満面の笑みを向けられてカカシは黙り込む。
シズネがかなり怖い。
写輪眼のカカシといえど今、逆らうと命の危機が訪れると戦闘の最前線で鍛えた直感が言っている。
「もし居続けるのなら邪魔をしないで、ほんの少しでも手伝ってください」
「・・・・・・・・・・・・はい」
大人しくカカシは了承の言葉を口にして頷いた。



「シズネさん」
ふわりと温かい匂いがして湯気立つ湯飲みをイルカがシズネに差し出した。
いつの間に淹れたのか、香ばしい匂いのするお茶だった。
「先日からお疲れさまです、一息入れてください」
「あ、すみません」
イルカさんありがとうとシズネが先程とは全く違う笑顔でほっとしたようにイルカから茶を受け取った。
「あー、ウマイ」
先に茶を貰っていた綱手は既に飲んでいる。
コテツとイズモにも茶を渡すとカカシもイルカは差し出す。
「カカシさんもお疲れさまです」
「俺、何もしてないですよ」
「それでも・・・。だって本当は休みで家に居てもいいのに俺に付き合って一緒にここまで来てくれたじゃないですか」
「・・・それは、まあ」
「だからありがとうとお疲れさまです」
にこと笑ったイルカにカカシは癒される。
茶を一口飲むとカカシはイルカに申し出た。
「あの、もしも俺に出来ることがあったらお手伝いさせてもらえませんか」
「でも」
「事務仕事はあんまりしたことないですけど」
実戦向きで戦闘を主体とするカカシは実際、事務系の仕事はしたことがないといってもいい。
「お役に立てないかもしれないけれど」
イルカのやっている仕事を知りたいと思うし、手伝うことでイルカと一緒にいられたらイルカも喜んでくれるしカカシ的には万々歳だ。
「ありがとうございます、カカシさん」
嬉しそうにイルカは微笑んだ、そして・・・。
「ではカカシさん」
イルカの笑顔はシズネのそれにとって変わられた。
「この書類をお願いします。すごく簡単な作業ですから」
あれこれと説明を始めるシズネはカカシの前に、前が見なくなるほどの山となった書類を置いた。
「これを明日の朝までに終わらせてください」
カカシさんの任務は明日の夕方からでしたよねと何故かカカシの任務予定まで把握している。
目は口ほどに物を言う。
逃がしませんよ、ときらりとシズネの眼が光っていた。
「まあ、いいけどね」
言われた通りに書類の整理を始めるカカシ。
合い間にイルカを見ると、その度に微笑み返されて幸せではあった。
───こういうのも悪くない。
恋人と同じ仕事を同じ部屋でするなんて初めての体験でカカシは仕事をしているのにウキウキとしてくる。
そんなカカシを見て綱手はシズネに、そっと囁いた。
「シズネ・・・」
「なんでしょう?」
「ピンクのハートマークが宙に浮いているんだが」
「・・・そうですね」
「それに息苦しい、空気が甘ったるくて」
「・・・・・・そうですね」
「それに恋人同士ってやつを見ているとイライラするんだが」
「・・・・・・・・・そうですね」
「どうすれば解決する?」
「私たちにも恋人が出来れば解決するんじゃないかと」
「本当か?本当に本当に本当か?」
「・・・・・・・・・・・・すみません、私は仕事一筋で生きていこうと思います」
「なんだ、そりゃ」
「恋に生きるのは無理だって今日、たった今悟りましたので」
涙は出ていないがシズネは目元を拭う。
だいたいにして恋人を作る時間がない───。
そして静かに仕事に戻っていった。
綱手も溜め息を吐くと仕事を再開し、なるべく二人、特にカカシを見ないようにする。



いつだって二人でいれば良いわけで。
二人がいれば良いわけで。
二人で過ごせばそれは薔薇色の日々になる。
多分。




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