バブルバス
「これ、良かったら。」
報告書を受け取り、処理をしていたイルカは、そう言われて顔をあげた。
「何でしょうか?」
イルカに話しかけてきたのは、現在、報告書を受け取って処理をしている相手だ。
「お土産ってほどでもないけど。泡風呂の素だよ。」
可愛らしい形の瓶には青い液体が入っている。
「任務先で見つけて珍しかったから。」
イルカに泡風呂の入浴剤を渡そうとしているのは年若い上忍で彼は、時々イルカにお土産と称して色々くれる。
「でも、俺んち、ジェットバス付いてないので。」
泡風呂にはできません。
そう言って断ると、その上忍は心なしか、がっかりした様子だったが「普通の入浴剤としても使えるから。」とイルカの手に泡風呂の入浴剤を渡し、報告書の処理が終わると行ってしまった。
「いっつも悪いな。」
イルカはそう呟くと手の中の瓶に視線を落とした。
ジェットバス。
確かにイルカの家の風呂には付いていないが、一つ心当たりがあった。
カカシの家だ。
何回も遊びに来るように言われて合鍵も渡されているが、一度も行ったことはない。
確か、大きい浴槽にジェットバスが付いているって言っていたっけ。
幸い、カカシは任務で里にはいない。
主不在の家に行くのは少々後ろめたかったが、泡風呂を試すべくイルカはカカシの家に行くことにした。
浴槽に勢いよく、お湯を注ぐ。
お湯が溜まった頃を見計らってイルカは青い液体を瓶の半分くらい入れた。
ドキドキしながら、浴槽の縁に付いているジェットバスのスイッチを入れる。
静かな音を発しながら、気泡がお湯の中を巡ると、あっという間に浴槽から白い泡は溢れて洗い場まで達した。
「すごーい、きれーい。」
初めての泡風呂にイルカは感嘆した。
「いい匂い〜。」
異国の香りが風呂場に充満する。
それはイルカを、とてもリラックスさせた。
恐る恐る浴槽に足を入れて泡の中に入る。
それは、とても気持ちいいものであった。
お湯をたくさん使うことに良心は咎めたが泡風呂の誘惑に勝てず、イルカは浴槽内で泡と戯れる。
「後で、お湯は洗濯に使えばいいよな。」
自分に、そんな言い訳をして浴槽の縁に腰掛け、両手で泡を掬って吹き飛ばす。
フワフワと空中を彷徨う純白の泡。
なんて、面白い。
イルカは楽しくなって子供のように、それを飽きずに繰り返す。
そんな時、声がした。
「誰かいるの?イルカ先生?」
ガラリと脱衣所の扉を開ける音がする。
「え?もしかしてカカシさん、帰って来た・・・。」
ちょっと待ってよ、帰ってくるのは明後日じゃないの?
イルカは慌てるが、この状況は、もう隠しようがない。
風呂場を埋め尽くす白い泡、そして、泡だらけの自分。
どうしよう!
そして、遂に風呂場の扉も開けられた。
「イルカ先生・・・。」
カカシは風呂場を見て、絶句している。
そりゃ、そうだろうなあ。
いい大人が風呂場で泡風呂の泡で遊んでいるなんて。
しかも、お湯を無駄遣いしてるし。
怒るよな。
「あ、あの。」
ごめんなさい、と言おうとしてカカシを見ると何故か両手で口元を押さえていた。
しかし、両目は開いている。
「カ、カカシさん?」
カカシの顎付近から何かがポタリと垂れた瞬間、風呂場の扉はバンッと音を立てて閉められた。
「ゆ、ゆっくり入っていていいですから。」
慌てたようなカカシの声が脱衣所から聞こえた。
そして、次に脱衣所から急いで出て行く気配がする。
「どうしたのかな。」
不思議に思いながらも、カカシが怒っていないことに安堵してイルカはもう少し、泡風呂を堪能することにした。
カカシさんも風呂に入れば、良かったのにね。
泡風呂、気持ちよくて楽しいのに。
後になって、そう思ったイルカだった。
ちなみに、カカシの顎からポタリと垂れたのは。
どうやら血であったらしいが、任務では無傷であったので。
出どころはどこやら。
イルカには見当が付かなかったらしい。
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