アタックチャーンス!
『アタックチャーンス!』
イルカ先生に告白したら振られた。
バッサリと。
「……男同士では無理ではないでしょうか」
とっても困った顔をして言われた。
そりゃあ、そうだが、だがしかし!
頭では分かっていても感情は別なのだ。
俺はあきらめない。
今日もイルカ先生にアタックチャーンス!するべく、イルカ先生を日々、覗き見…、いや観察…、いや、あのアレみたいなことをしている俺であった。
『アタックチャーンス!セカンドステージ!』
やっぱりというか、全っ然っ諦めきれなくてイルカ先生にもう一度、告白したら振られた。
イルカ先生は、俯いてしまって俺を見てくれない。
「…お返事できません」
ものすごく困った顔をして言われた。
またしても、振られてしまった。
二度目のアタック失敗惨敗。
俺のハートは粉々、散り散りに砕け散って…。
ショックのあまり、目を開けたまま気絶していたようで、正気に戻ったときにはイルカ先生は消えていた。
「おい、カカシ、場所選べって」
誰かの声がする。
そういや、ここは昼時の食堂。
人が大勢いたのを忘れていた……。
『アタックチャーンス!サードステージ!』
イルカ先生が下忍、中忍、上忍の入り乱れた、合同の飲み会に出ると聞いたので出てみることにした。
大きな飲み会に参加するのは初めてだ。
とりあえず告白は一旦、置いといて、だ。
イルカ先生ともっと親交を深めたいと思ったのだ。
酒の席なら、酒の所為でイルカ先生のガードも緩くなるはずだと目論んだ。
目論みは当たった。
まんまとイルカ先生の隣の席をゲットした俺はイルカ先生と酒を酌み交わすことに成功したんだが・・・。
いかんせん、イルカ先生のガードが緩くなりすぎた。
俺の勧めた酒を飲んだイルカ先生は、酔う前に眠ってしまったのだ。
し、か、も!
俺の膝の上に頭を乗せて。
いわゆる、これは憧れの膝枕ってやつか?
なんて豪華な、素敵な展開!
イルカ先生のかわいい寝顔にわくわく、どきどき胸を高鳴らせていると横に座っていたやつが呆れたように言った。
「あーあ、イルカは酒が弱いのに。あまり飲ますなってのが通例になっていたのによう」
「あ、そうなの」
知らなかった。
なにしろ、こんな飲み会初めてだし。
イルカ先生と飲んだの初めてだし。
「責任取れよ、カカシ」
「え!いいの?」
責任って、つまり、アレか・・・。
アレしかないよな、うん。
隣のやつが俺の顔を見て、やれやれという風に溜め息を吐く。
「家まで送れってことだよ、それ以外に何がある?」
「あー、そうだよねえ」
「そうに決っているだろ」
妙に目をキラキラさせやがって、何を考えていたんだ、と訝しそうな顔をされたけど。
だって、しょうがないじゃない。
好きな人が警戒心もなく、自分の膝の上で寝ていたら心躍るってもんだろう?
『アタックチャーンス!ファイナルステージ!(完)』
で、俺はときめく心を無理矢理に抑えて寝ているイルカ先生を、そっと揺さぶった。
「イルカ先生、起きてください」
耳元で囁く。
囁き声に甘さが混じるのは仕方がない。
だって夢にまで見た光景だからな〜。
夢でしか見たことないもんな、こんな光景。
すやすやと寝ているイルカ先生を俺が起こすって、なんていいシチュエーション!
そんでもって起きたイルカ先生は目を開けて、最初に俺を見て俺の名を呼んだりする。
「カカシさん・・・」って。
そんでもって二人は見つめ合い、そして目くるめく愛の・・・。
「あのよー」
俺が妄想・・・ではなく想像していると隣から茶々が入った。
「この飲み会の喧騒の中で眠っているやつが囁き声なんかで起きるわけないだろーが」
・・・まあ、確かに。
「背負って家まで連れていってやれよ」
「え、家って?」
俺の家?
「ちげーよ」
隣のやつが、すっごく嫌そうな顔をする。
「イルカの家に決ってんだろ」
自分の家に連れて行って何をするつもりなんだ?と更に嫌な顔をされた。
・・・まあ、俺の家に連れて帰ったら、そうだなあ。
その展開にわくわくして色々とあれこれ、どれそれ考えていたら「いい加減にしろ」と呆れたように怒られた。
それでもイルカ先生は俺の膝を枕にして安心して健やかに眠っていたのだった。
まあ、怒られた俺は少しは反省したので、素直にイルカ先生をイルカ先生の家に送っていくことにした。
イルカ先生の家には一回も招かれたことがないが所在地は把握済みだ。
うきうきしながらイルカ先生の体に、そーっと触る。
・・・こんなに接触したのは初めてだ。
にやけてしまう。
「あのさー」
ふと思って隣のやつに訊いた。
「背負っていかなきゃダメ?抱っこは?」
聞いたら答えてくれず、盛大に眉を顰められた。
・・・・・・イルカ先生のことは『今回は』背負っていくことに譲歩した大人の俺だった。
夜道をてくてく、イルカ先生を二人きり。
イルカ先生は俺の背中で安心して眠っている。
いいなあ、こういうの。
信頼した関係ってのが成り立っているから、イルカ先生、俺の背中で寝ているんだよなあ〜。
ほんわかしてしまう。
また告白して、お付き合いを申し込もうと意欲がわいてくる。
だってイルカ先生が好きだから。
それに、だ。
考えてみれば、正式に断られてはないわけで。
最初は男同士は無理だって言われて、その次は人が大勢いたからで。
これをクリアしたらいいんじゃない?
ぱーっと目の前が開けた感じがした。
希望が見えてきた!
イルカ先生の家が近づいてきたと思ったら背中のイルカ先生の気配が変わった。
変わったってのは起きたってことだ、つまり。
もぞっと動いたイルカ先生は俺の背中で顔を上げたようだった。
今まで背中に、くっ付いていたと思われる頭の部分の温かさが消えたから。
「・・・ん、あれ」
辺りを見回している感じ。
ここはどこだろうって。
で、次にイルカ先生に突拍子もないことをされた。
ふわっとした感触が俺の頭に舞い降りてきて、優しい手が俺に触れたのだ。
無言でイルカ先生に撫でられた。
撫で撫でと撫で繰り回される。
「ふふ、かわいいなあ」
イルカ先生が笑った。
見なくても解る。
「いい子いい子」って。
イルカ先生は俺を子供か何かを勘違いしているのかなあ。
それとも、まだ夢の中?
まー、いいけど。
イルカ先生に撫でてもらうのは気持ちがいい。
好きな人に、こんな風に触れられるのが、こんなに気持ちのいいものだとは。
願わくば、ずっと触れていてもらいたい。
そんでもって俺もイルカ先生に触れていたいな・・・。
しばらく俺を撫でていたイルカ先生の手が、ふっと止まった。
はあ、と俺の背中で吐息を吐く。
切ない溜め息、と思えるのは俺の気のせいか。
その次に聞こえた言葉も俺の気のせいか・・・。
「好きなんだよなあ、やっぱり」
イルカ先生の頭が俺の背中に、またぴたりを張り付いた。
頬を俺の背中に寄せているみたいで。
「カカシさんのこと・・・」
・・・・・・・・・え?ん?は?
俺に衝撃が走った瞬間だった。
今・・・。
今、イルカ先生、何て言ったんだ?
好きって。
やっぱりって。
カカシさんって・・・。
カカシさんって俺のことか!
俺の名前は確か、はたけカカシ、のはず。
思わず、自分で自分の名前を再確認してしまった俺だった。
俺は立ち止まって固まった。
今、イルカ先生、何て言った?
俺のこと好きだって言ったよな。
え?寝言・・・か?
でも好きだって、俺のこと好きだって。
好きな人に好きだって言われて、動揺しないわけがない。
どうしよう、どうしたらいい。
今すぐ、イルカ先生に問い質したい。
問い質したいけど、もしも俺の聞き違いだったり、俺の願望による幻聴だったりしたら・・・。
そうこうするうちに背中にイルカ先生の気配が不意に明確になった。
起きたのだ。
「えっ!ここは・・・」
背中のイルカ先生が、じたばたし始めたので、俺はイルカ先生を背中から下ろした。
「あ、カカシさん・・・」
一瞬、俺を見たイルカ先生は、すぐに俯く。
顔を隠すように。
「すみません」
小さな声がイルカ先生から聞こえた。
「俺、酔っちゃって眠ってしまったんですよね、それでカカシさんがここまで連れてきてくれたんですよね」
「ええ、まあ」
イルカ先生を背負うチャンスだったから、イルカ先生に触れるチャンスだったから、とは言わなかった。
「いつもお酒を飲むと眠くなってしまって」
ご迷惑をお掛けしましたとイルカ先生は頭を下げた。
すみません、と。
そんなのいいのになあ。
「気にしないでください、誰にでも苦手な物ってありますし」
イルカ先生はお酒が苦手だっただけで。
だいたい、飲ませたの俺だし。
「イルカ先生が寝たら、いつでも俺が家まで送りますよ」
これは本心。
イルカ先生を家まで送るなんて大喜びでする、ってか、是非したい。
「あ、ありがとうございます」
ほんのり赤くなってイルカ先生が顔を上げた。
「嬉しいです」
・・・・・嬉しい?
ん、あれ?
なんか、予想外の展開だな。
思っていたのと違う。
どう見てもイルカ先生は俺に好意的なんだけど。
好かれている感じがするんだけど。
よし!
俺は再度、チャレンジすることにした。
チャンレジって、例によって例のごとくだ。
「あのっ!」
大きく息を吸い込んで、イルカ先生の肩に両手を置いてスタンバイオッケー、ロケーションオッケー。
「イルカ先生!」
「はい」
イルカ先生が、じっと俺を見る。
「好きです、イルカ先生。俺、イルカ先生のことが好きなんです、とっても」
ゆっくりと噛み砕くように、優しく丁寧に。
イルカ先生が好きなことを言った、男同士でも好きだということも、ずっと一緒にいたいことも、恋人になりたいことも。
自分の気持ちを全部、告白した。
告白が終わるとイルカ先生が、どんな反応をするか急に心配になってしまった。
イルカ先生は俺も告白を聞いて、どう思ったんだろ・・・。
「あの、ありがとうございます」
イルカ先生は照れたように微笑んだ。
「えっと」
イルカ先生が大きく息を吸い込んだ、あ、これは、もしかして大事なことを言おうとしている?
「俺も・・・。あの、その・・・。えっと、ですね」
照れているイルカ先生、可愛い。
可愛いイルカ先生に見蕩れていると不意打ちを喰らった。
「カカシさんのことが好きなんです」
雷が落ちたような衝撃だった。
ってか自分が雷を落とす立場になることもあるんだけどね。
「恋愛は男女のもの、と思いこんでいたんですが」
イルカ先生は困ったような顔をする。
「カカシさんが好きな気持ちに嘘はつけないなあって」
俺を見てイルカ先生は微笑んだ。
俺もイルカ先生を見て微笑む。
お互い、嬉しそうに。
自然と俺とイルカ先生の手と手が触れて、手と手が繋がれる。
「好きになるのに理由はいりませんよね」
「そうですね」
イルカ先生に言われて、俺は頷いた。
でも、まあ。
俺がイルカ先生を好きになった理由は、たーくさんあるので今度、ゆっくり語ろうと思う。
でもって、イルカ先生からも俺を好きになった理由を訊いてみたい。
きっと一つはあるはずだから。
手を握り締めて俺は夜道をイルカ先生と歩きだした。
満ち足りた気分で、とっても幸せ。
いつまでも、こうしてイルカ先生と一緒にいられたらいいなあ、と思ったのだった。
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