うちの子どんな子かわいい子、おれのあの子はかわいい子
番外篇 冷たいあの子




夏。
暑い日が続き、イルカの主食は水分と氷に変化していた。
昔はお菓子とジュースが定番で、最近はやっとご飯の主食は炭水化物となってきたのに。



「あち〜」
その日、イルカは床に、べたっと張り付いていた。
「冷たくて気持ちいい〜」
フローリングの床は冷たい。
ごろごろと床を転がって涼を取っている。
「早く冬にならないかな〜」
冬の寒い時期には「早く夏にならないかな〜」と言っていた。
「あー、つめた〜い」
家の中でイルカは半袖、短パン。
出来る限り、涼しい格好をしていた。
「まあ、そのうち涼しくなるよ」
扇風機の風をイルカに向けてやりながら自らは団扇で扇いでいたカカシが言う。
カカシもイルカを同じような格好で暑そうにしていた。
「暑さも一時だ」
「そうは言ってもカカシさん」
行儀悪く床に寝転がりながらイルカは、だるそうにカカシを見上げた。
「暑いもんは暑いよ」
「そりゃ夏だから」
「なんで夏は暑いの?」
「夏だから」
「いつ暑くなくなるの?」
「夏が終わったら」
「・・・そう」
会話しているだけで暑くなってくる。



「せめて夕方にならないかな〜」
ごろごろっと床を転がりイルカは部屋の隅に行く。
ぺたっと体を壁にくっ付けた。
床と壁に体をくっ付けて涼しさを求める。
「あち〜」
先ほどと同じ言葉がイルカから出た。
朝から何回も同じ事を言っている。
「あのねえイルカ」
カカシは溜め息交じりに呟いた。
「暑いって、いくら言っても涼しくはならないの」
「分かっているけど」
ぐったりしたようにイルカは目を閉じた。
「暑いのは、どうしようもないんだもん」
子どものように駄々を言っている。
「暑すぎ〜」
イルカは暑さで、へばっていた。
そんなイルカが心配になったカカシは重い腰を上げた。
「んじゃあ、昼飯でも作りますか」
冷たい冷麦でも、と提案したのだがイルカは首を横に振った。



「ごめんなさい、食べたくないです」
「少しでいいから食べなさいって」
「食欲なくて」
「最近、ちっとも食べてないでしょ」
カカシは困ったように眉を顰めた。
「イルカが、まともに食事しているところ見てないよ」
ジュースかアイス、カキ氷ばっかり食べているじゃないの、とちょっと叱ってみる。
「ご飯、食べないと夏ばてするよ」
「すみません」
しゅんとなったイルカであったが、やっぱり首を横に振る。
「今は食べたくありません、後で食べますから」
既にイルカは夏ばて気味だった。
「しょうがないなあ」
このところ、猛暑日が続き夜も暑くて寝れない日が続いていた。
おまけにイルカの家には扇風機しかなくて夜は生ぬるい風が送られてくる。
タフなカカシも暑さには閉口しており、少し寝不足ではあった。



「でもねえ、イルカ」
イルカにご飯を食べさせたいカカシ。
主に水分だけで生活しているので心配になる。
忍で体力はあっても、数日間、食事の主成分が水分というのはいかがなものだろうか。
どうすればイルカが食事をするか?
カカシが真剣に考え始めた時、イルカから小さな声がした。
途切れ途切れの、今にも眠ってしまいそうな声。
「ご飯は・・・夜になった・・・ら食べ、ますから」
言い終わると目を閉じてしまった。
寝不足で疲れていたのが一気にピークに達したらしく眠ってしまった。
「まったく、もう」
床と壁に体をくっ付けてしまったまま寝てしまったイルカを口で言うのとは裏腹にカカシは優しく見つめる。
「困ったもんだね、この子は」
汗で額に張り付いた髪を掬い上げた。
額に浮んだ汗を水で濡らした冷たいタオルで拭いてやる。
ついでに、そのまま額に乗っけてやるとイルカの表情が和らいだ。
ほっとしたように。
そんなイルカにカカシは頬を緩める。
「イルカって」
イルカの寝顔に見入ってしまう。
同じ男でで成人間近なイルカに。
「可愛いよなあ」と言ったのは惚気に間違いなかった。
だから、ついつい甘やかしてイルカの好きなものを食べさせてしまう。
それは、やはり問題だ。
・・・そこは反省しないとな。
イルカの寝顔を見て、うとうとし始めたカカシは目を閉じた。
久しぶりに眠気が襲ってきたのだ。



「あれ?」
イルカが目を覚ましたとき、辺りは暗くなっていた。
当然、部屋の中も暗い。
「ここ、どこだ?」
もぞもぞ、と動いてみる。
何かにしっかりと抱きしめられていた。
よくよく見るとカカシの腕の中だった。
「う、わ・・・」
カカシに腕枕されて寝ていたのだ。
すごい体勢だな、これ。
照れながら目を閉じているカカシを軽く揺さぶった。
「カカシさんカカシさん」
「ん〜」
寝ぼけ眼のカカシが薄っすら目を開ける。
イルカを見ると微笑んだ。
「ん〜、おはよう」
にやけた顔で、ちゅっとキスされた。
「そ、そうじゃなくて」
思わず逃げようとしたのだが生憎、カカシの腕の中。
逃げられるはずがなかった。
「カカシさん、もう夜ですよ」
「あー、そう」
いまだカカシは、まどろんでいるようだ。
「起きてご飯食べましょう」
ぐっすり寝た所為か、お腹が減っていた。
「俺、腹減りました」
「そうだねえ」
聞いているのかいないのか。
カカシは腕の中のイルカを抱きしめる。
「あー、気持ちいいなあ、この感じ」
「あ、あのー」
汗ばんだ体が恥かしくてイルカは身を捩る。
「そんなにくっ付かないでください、カカシさん」
「えー、なんで」
「だって俺、汗かいているし。気持ち悪いでしょう?」
「ぜーんぜん」
カカシは首を振る。
「イルカを抱きしめていると気もちいいし、心地よくなるよ」
清涼剤だね、なんて言っている。



「んな馬鹿な・・・」
自分が清涼剤なんて露ほど思ってないのでイルカは、びっくりしている。
「どっちかっていうと暑苦しい方ですよ、俺は」
「そんなことないよ、俺にとっては精神安定剤でもあるかな」
イルカを抱きしめたカカシは頬を、すりすりとしてくる。
素直に好きだという気持ちを行動で示してくるカカシ。
「イルカ大好き」
「あ、ええっと」
カカシが好きなのに、すぐに行動で返せないのはイルカが恋愛に対してまだまだ未熟な証拠だ。
ものすごく照れている。
「あ、そうだ。ご、ご飯、食事をしないと」
「そうだね」
イルカを腕に抱きしめたままカカシは難なく起き上がった。
「涼しくなってきたし、外に食べにでも行こっか」
「はい。でも、このままで?」
抱きしめられたままのイルカはカカシに問う。
「まあ、俺はいいけどね」
笑ってからカカシはイルカを腕から解放した。
「今は食事に行こうとしますか」
ね?と手を差し出すとイルカは、ぎゅっと握ってきた。
そのまま、外に出る。
日が暮れた外は涼しい風が吹いていた。
今日の夜は寝れそうだった。
カカシの手を握ったイルカは、ふと思った。
すっごい暑い日だったのに。
隣のカカシを見る。
カカシさんとくっ付いて寝ても暑くなかったのはなんでだろ?
不思議だ。
じーっとカカシを見ているとイルカの視線に気がついたカカシに微笑まれ、慌てて視線を外す。
胸がどきどきした。
カカシといると不思議なことが、たくさん起きる。
恋人・・・だからかなあ、と、そんな答えがイルカの頭に浮ぶ。
空を見上げると月が煌々と輝いていた。
明日も快晴だろう。
暑い日はまだまだ続きそうであった。









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