甘さ
今日は、うちとアスマの班と紅の班との三班の合同任務だった。
といっても、そんな大層なものではなく、古い建物の解体作業だったので人手が要ったのだ。
任務の休憩中、さくらといのとヒナタは女の子だけで三人集まり、嬉しそうに話しに花を咲かせていた。
三班で一緒になることは余りないので実に楽しそうに話をしている。
俺は本を読みながら、何とは無しに話を聞いていた。
「ねえねえ、この前、新しく鯛焼き屋さんできたの知ってる?」
サクラが言えば二人は頷く。
「知ってる知ってる!」
「美味しいよね、あそこ。」
そういう情報は素早く耳に入るらしい。
「だよね〜。」
三人は笑顔で話している。
「あのお店の鯛焼き、餡子の他に生クリーム入りのがあるんだけど、あれって美味しいよね〜。」
「あー、あの生クリーム入りの?私も大好き!」
「私も・・・。」
俺は聞いているだけで胸焼けがしてきた。
生クリームなんて、そんな甘いものが入った鯛焼きなんて食べきれる気がしない。
「でね、この前なんて、つい食べすぎちゃってね。」
サクラが言っている。
食べすぎって聞いて俺は、精々まあ、いいとこ五、六個くらいだろうと思っていたのだが、少女たちの胃袋は俺の想像の上をいっていた。
「美味しいから、気がついたら二十五個も食べていたの。」
「あー、分かる。私も三十個食べたことあるわ〜。」
「私は三十五個・・・。」
俺の手から読んでいた本が、ぼとりと落ちた。
なんだって!
食べた鯛焼きの数、一桁間違えてるんじゃないのか・・・。
女の子の胃袋はブラックホールに繋がっているのか、それとも四次元になっているのか。
「カカシ先生、本、落ちましたけど?」
サクラが、呆然として動かない俺を見て声を掛けてきた。
「あ、ああ・・・。」
俺は、ぎこちない動きで本を拾う。
鯛焼きを二十五個、三十個、三十五個って、いったい・・・。
釈然としないものを感じている俺を目敏く察したサクラが肩を竦めて言う。
「カカシ先生、今の話聞いていたんですか。」
「・・・まあね。」
「もしかして誤解していません?」
いのが首を傾げた。
「私たち、甘いものばっかり食べているように聞こえるかもしれませんけど。」
「あの、ちゃんとバランスよく、ご飯も食べています・・・。」
ヒナタも弁解する。
・・・問題はそこじゃない。
そんだけ鯛焼き食べて、更に普通にご飯も食べるのか!
しかし、そこに突っ込んだら、その倍くらい言い返されるのは目に見えているから俺は、ごほんと咳払いをして誤魔化し、また本を読み始める。
そんな俺を置きさって少女たちは再び話しに花を咲かせ始めた。
本当、この年頃の少女たちには驚かせられる。
向かうところ敵無しってところか。
任務が終わって解散になると俺はアカデミーの方向に歩き始めた。
報告書はアスマと紅に任せたから今日の俺は、あとはイルカ先生を迎えに行くだけだ。
アカデミーへの道をのんびりと歩いていたら、前方からイルカ先生の姿が見えた。
「あ、カカシ先生ー。」
手を符って駆け寄ってくる。
「イルカ先生。」
俺の顔は自然と綻んだ。
「今日は早かったんですね。」
「ええ、まあ。」
イルカ先生は照れくさそうに笑う。
「仕事が早く終わりましね。」
「そうなんだ。」
他愛もないことを話しながら歩く。
「あ、そうだ。」
イルカ先生が手にしていた小さな紙袋から何かを取り出した。
実は先刻から、その紙袋の中から甘い匂いが漂ってきていたのだ。
「これ、一つどうですか?」
鯛焼きだった。
「すごく美味しいって生徒から聞いて、帰りがけに買ってきたんです。」
もしや、それは昼間サクラたちが話していた店の中かな・・・。
「何でも新しくできたお店のやつで、生クリームが入ったやつが好評なんだとか。」
イルカ先生の説明は、サクラたちの話のものとどんぴしゃだった。
「あ、どうも。」
せっかくイルカ先生が買って来てくれたので俺は恐る恐る口に運んだ。
歩きながらだけで、少しくらいいいよね。
隣でイルカ先生も、ぱくりと鯛焼きに噛み付いている。
「うまい!」
鯛焼きを食べた俺とイルカ先生は、同時に声を上げた。
「意外にいけますね。もっと甘いかと思っていましたが。」
「俺も。甘すぎてなくていいですね。」
あっという間に、鯛焼き一個を食べてしまった。
「ご馳走さまでした。」
「いえいえ。どういたしまして。」
ふと、イルカ先生の手を見ると指先にクリームがついていた。
「あ、こんなところにクリームが。」
イルカ先生の手首を取って指先を、ぺろりと舐める。
「あ、すみません。」
夕闇に紛れて赤くなったイルカ先生は急いで手を引っ込めた。
「いいええ。これくらい、いつでもどうぞ。」
俺は思わぬ嬉しいハプニングに、にこにこだ。
「いつでもは、ご遠慮します。」
イルカ先生は照れたしまったのか早足になる。
「待ってよ、イルカ先生。」
そんなイルカ先生と俺は追いかけた。
すごく幸せな気分で楽しい。
この雰囲気だけで胸いっぱい、お腹いっぱいだ。
恋人との甘く楽しい、ひと時が俺を幸福にする。
恋を知ったら少女たちも、きっとそれだけでお腹がいっぱいになるはずだと思う。
鯛焼きとかの甘いものなんて、目に入らないくらいにね。
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