苺のショートケーキ
はたけカカシは甘いものが苦手だ。
好きではない。
滅多に食べない。
ついでに天ぷらも好物ではなかった。
だけどもカカシは家に帰る途中、ふと足を止めた。
そういえば、あの人・・・。
店のウィンドウに飾ってある綺麗にデコレーションされたお菓子に目を奪われた。
それはチョコだのクリームだのを使っていて、とっても甘そうに見えた。
いや、おそらく甘いだろう。
カカシだったら、あの色取り取りのお菓子を口に入れただけで甘い空気で窒息してしまうかもしれない。
それくらい甘いものが苦手だった。
だけども。
ふと家で待っている同居人の顔が頭に浮かんだ。
同居といってもルームシェアとかではない。
同棲に近いような、というより同棲しているといっても過言ではない。
同棲相手は頑なに、それを認めようとはしなかったが。
だから今でも同居している同居人。
関係は周知の仲だというのに。
あの人、照れ屋さんだからなあ〜。
同棲と言ったとき、照れて否定するときの顔は赤かった。
「ふふふ」
思い出しても甘い気分になる。
目の前のお菓子のように。
「甘いものが食べたいって言っていたっけ」
疲れ気味だから甘いものが食べたいとか何とか。
その時は家に甘いものなんてなかったから、カカシが肩を揉んであげたら、とっても喜んでいた。
「カカシさん、肩揉み上手ですね!」
人の肩なんて揉んだことがなかったから喜ばれて嬉しかった。
調子に乗ってうつ伏せにさせた体のあちこちを揉んであげたら、たいそう喜ばれたけれど凝りが解れて気持ちよくなったのか、眠ってしまったのは困った。
安心した顔で眠っているんだもんなあ。
なんの心配も不安も感じさせない顔でカカシに体を委ねて、すやすやと眠っていた。
それだけカカシのことを信頼しているという証ではあるのだが。
嬉しいことだけど信頼されすぎているってものな〜。
ちょっとだけ不満になる。
寝る前のイチャイチャが楽しいのに。
それはカカシの密かな楽しみでもある。
今日はイチャイチャできたらいいなあ。
そんなことを思いながらカカシは甘そうなお菓子を同居人のために入手した。
「ただいま〜」
玄関に入るといい匂いがしてきた。
「あ、お帰りなさい」
にこやかな顔で同居人が顔を出す。
「うん、ただいま」
そう言って同居人を引き寄せて頬に唇を寄せる。
「イルカ」
名を呼ぶと途端に、ぱっと同居人のイルカは赤くなる。
「イルカ先生は、すぐ照れるねえ」
「不意打ちで名前を呼ぶから」
「不意打ちって、イルカはあなたの名前でしょ」
からかうように言うとイルカは「もう!」と腰に手を当ててカカシを軽く睨む。
「いつもは先生をつけて呼ぶじゃないですか」
「だって、呼びたくなったんだもの」
そして、もう一回呼ぶ。
「大好きイルカ」
「わああ」と大きな声を出したイルカは耳を塞いで逃げていく。
「ご飯できてますから!」
「はいはい。今、行きます」
くすくすと笑ったカカシは下足を脱ぎ捨てると奥へと向かった。
食卓の上には既に食事が準備されていた。
それを見てカカシのお腹は素直に、ぐーっと鳴った。
「イルカ先生、俺、お腹ぺこぺこだよ」
「じゃあ、食べましょう」
にここしてイルカが言う。
「カカシさん、手を洗ってきてください」
「はーい」
洗面所に手を洗いに行く途中で冷蔵庫の中に買ってきたものを入れる。
「イルカせんせー」
「あ、はい」
「デザート買ってきたから食後に食べましょう」
冷蔵庫に入れておきましたから、と言うとイルカが「やったあ」と子供のように目を輝かせた。
食事を終えて片づけを済ますとイルカが、いそいそと冷蔵庫の中からカカシの買ってきたものを持ってきた。
「なんですか、とっても甘い匂いがしますね」
「うん、開けてみて」
白い箱を開けると中にはケーキが入っていた。
何種類かのケーキが行儀よく箱の中に納まっている。
「わあ、綺麗なケーキですね!」
「イルカ先生、甘いもの食べたいって言っていたから」
「俺のために買ってきてくれたんですか」
「まあ、そうですね」
「嬉しいです!カカシさん、ありがとう!」
素直に感謝の気持ちを表されてカカシの方が照れてしまう。
こういうときのイルカは気持ちを出し惜しみせずに相手に率直に伝えてくる。
イルカの長所だ。
カカシも見習いたくなる。
・・・でも、そのお陰でイルカ先生を憎からず思うやつが増えているんだよねえ。
そこは、ちょっと困りものだ。
ま、俺のガードは固いけど。
そんなカカシの気も知らずイルカはケーキを見て、はしゃいでいる。
「誕生日でもクリスマスでもないのにケーキなんて嬉しいなあ」
どれを食べようかな、と楽しげにケーキを見つめている。
はしゃぐイルカを見ているとカカシの心は和んでいく。
イルカ先生、可愛いなあ。
微笑ましく見てしまう。
「カカシさんは、どれを食べますか?」
イルカに聞かれてカカシは首を振った。
「あー、俺はいいです」
イルカ先生食べて、と。
「え、食べないんですか」
残念そうに言われてカカシはイルカの頭を撫でる。
「イルカ先生のために買ってきたからイルカ先生に食べてもらえると嬉しいです」
俺には一口だけちょうだい、と強請るとイルカが頷いた。
「分かりました、じゃあ、どれを一口食べたいですか?」
どれでも良かったのだが、とりあえず「苺の」と言っておいた。
「はい、カカシさん」
苺のショートケーキを皿に載せたイルカが上に載っていた苺にフォークを刺してカカシの口元に持ってきた。
「どうぞ」
苺・・・。
ショートケーキの主役というべき苺をカカシにくれるらしい。
「はい、あーん」
にっこり笑ったイルカに、そんなこと言われてカカシは口を開けてしまった。
口の中に進入してくる苺。
そんなに甘くはなかった。
「美味しいですか?カカシさん」
「うん、美味しいです」
カカシの正面に座ったイルカは、それを聞いて顔を綻ばせた。
「よかった」
じゃ、もう一口と今度は、クリームをいっぱい掬ってカカシの口元に持ってこようとするからカカシは慌てる。
あのクリームは苺の何倍も甘いに違いない。
「イルカ先生、俺はもういいですから」
イルカの手からケーキの載った皿とフォークを取り上げる。
「イルカ先生が食べてくださいよ」
カカシはクリームを掬ったフォークを、そのままイルカの口に持っていく。
「はい、イルカ先生。あーんして」
さきほど、イルカに食べさせられてカカシもしてみたくなったのだ。
「あーん」ってやつを。
「はい、イルカ先生」
口元に持っていくとイルカは上目遣いでカカシを見ながら口を開けた。
白いクリームがイルカの口の中に消えていく。
「美味しい?イルカ先生」
「・・・美味しいです」
「じゃ、はい。あーん」
ケーキを小さくフォークで切ってイルカの口に持っていくと大人しく口を開ける。
食べるに連れて顔は、だんだんと赤く染まっていた。
その行程を見るのも、また楽しい。
イルカは照れている。
激しく照れているがカカシにケーキを食べさせられるを嬉しく思っているから駄目とは言わない。
意地っ張りで照れ屋さん。
頑固だけど素直で可愛い人。
イルカが自分の手からケーキを食べる様を見ているだけで満たされた気持ちになってくる。
ああ、幸せ。
とうとう、ケーキを食べ終えてしまった。
食べ終わったイルカは真っ赤になっている。
「・・・ご馳走さまでした」
やっぱり照れている。
「照れちゃって〜、可愛いなあ、イルカ先生」
堪らずイルカを引き寄せ抱きしめるとイルカが真っ赤な顔で言ってきた。
「照れるって当たり前ですよ」
「なんで?」
「カカシさんが」
「俺が?」
イルカの瞳を覗き込む。
「とても優しい目で俺を見るから」
ケーキを食べていただけの俺を優しく見るから。
「あんな目で見られたら照れるのが当たり前です」
「そうですか?」
「そうですよ」
「俺はイルカ先生になら、いつでも優しい男になれますよ〜」
それは本当。
イルカにだけは、いつだって優しくできる。
カカシはイルカを強く腕の中で抱きしめた。
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