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合鍵



「それでは、失礼致します。」
火影の仕事を例によって手伝っていたイルカは、自宅へ帰ろうとして五代目の火影、綱手に頭を下げた。
「ああ、ご苦労だったな。」
綱手は名残惜しそうにイルカを眺めている。
綱手の補佐をしていたシズネは「ありがとう、イルカさん。」と労うように笑顔を見せた。
「手伝ってもらって、本当に助かりました。」
シズネは、そんなことを言っているが、火影の机の上には書類が、まだ山と積んである。
机の上が片付いていた例がないのだ。
ここは、いつも仕事に追われている火影がいた。



「すみません。」
帰ることへの罪悪感を少々抱きながらイルカは再び、頭を下げた。
本来ならイルカの仕事ではない上に、帰りがけに綱手に捕まり執務室に連れ込まれて、火影の仕事を手伝い、しかも残業代も出ないのだから気にしなくてもいいのに、とシズネは密かに思った。
でもイルカが手伝ってくれて、だいぶ、仕事は捗った。
そのことは否めない。
しかし時刻は夜更けになっており流石にイルカに、これ以上手伝わせるのは酷だと帰すことにしたのだ。


「では。」と火影の執務室を出ようとしたイルカは「あっ。」と声を上げた。
「どうした、イルカ。」
「何かありました?」
綱手とシズネが声を掛けたのだがイルカは、答えることなく慌てて自分の体を服の上から叩いて、服のポケットを全部ひっくり返してベストを脱いで、ばさばさと払った。
何かを探しているらしい。
暫く探して、見つからないことが分かるとイルカは肩を落として言った。


「家の鍵がありません。」


自分の家の鍵を無くしたらしい。
「朝、出る時に鍵を掛けた記憶はあるんですが。」
どこかで落としたらしいが記憶にない。
「どうしよう。」
イルカは、途方に暮れた顔をする。
「今からじゃ、誰かに泊めてくれって頼むにしても時間が遅すぎるし。宿屋と言っても。」とイルカは自分の財布を見て眉を顰めて、またポケットに仕舞った。

「アカデミーの職員室のソファーで寝るしかないかな。」などと言っている。
「合鍵とかはないんですか?」
シズネが気遣って聞くとイルカは首を振った。
「俺は持ってないんです。」
俺じゃなくて、と言い掛けて、ほんのりと赤くなる。
つまり、他の誰か、それも相当、気が許せる相手がイルカの家の鍵を持っているということだ。
それは親友とかではなく、もっと親しい間柄の相手を指す。



「そうかそうか。」
何故か、綱手は上機嫌になった。
「ならば、この執務室の隣のある仮眠室で休むがいいよ。」
満面の笑みが広がっている。
「それにイルカは、明日から三連休だったな。」
「はあ。」
聞いているシズネは、何だか嫌な予感がしてきた。
綱手は何かを企んでいて、イルカを丸め込もうとしている。
「そのイルカの合鍵を持っている相手は、任務で当分、帰ってこないのだろう?」
「ええ、まあ。」
イルカが言い辛そうに答えた。



「なら、ここにいればいいじゃないか。」
ここ、とは火影の執務室だ。
綱手は熱心に勧めた。
「その合鍵を持っている相手は、現在、里外の任務に出ているんだろう?なら、任務が終わったら、真っ先に私の所へ報告に来るんだから、ここにいれば行き違いになることもなかろう。」
暗にイルカの合鍵を持っている相手を知っていることを匂わせる。
「帰りを待っている間、ちょこっと仕事を手伝ってくれればいいからさ。」と、こんな時にこそなのか、取って置きの人の好い笑みを浮かべる綱手だ。
そうなると、恋愛事や何かを断ることに関しては要領が悪く、上手く切り返せないイルカは、二進も三進もいかなくなって綱手の言うままになってしまった。



「綱手様。」
シズネは見ていられなくなって、こそっと綱手に囁いた。
「イルカさんが可哀想じゃないですか。これ以上、仕事を手伝わせる気ですか?」
咎めるような視線を向ける。
「ううん、それもそうだな。」
シズネの忠告を受けて、綱手は執務室の机の引き出しを開けると、ある物を取り出してイルカに渡した。


「イルカ、これをやるから、飯の心配は要らないぞ。遠慮なく使え。」
一楽というラーメン屋の十枚綴りの食券だった。
「ありがとうございます。」
イルカは嬉しそうに受け取る。
大好きなラーメン屋だったし、綱手の思惑を疑うこともしなかった。


「綱手様。」
シズネは、再び、綱手に囁いた。
「あのラーメン券、ナルト君からイルカ先生に渡してほしいって頼まれていたやつじゃないですか!」
今度は、はっきりと咎める口調である。
「なあに。」と綱手は、肩を竦めた。
「それは後で伝えればいいんだよ、嘘は言ってないからいいじゃないか。」
半ば開き直っている。
額を押さえて、シズネは深々と溜め息をついた。



それから、イルカが手伝ってくれたお陰で仕事はだいぶ、片付いたのだ。
そのことには大いに感謝したシズネだったが、三日後に任務から帰って来たイルカの合鍵を持つ相手、上忍はたけカカシは、大層、怒っていた。



「イルカ先生、火影様の甘言に騙されちゃ駄目ですよ。」
「だって、一楽のラーメン券貰いましたら。」
カカシに言われて、小さくなってイルカは言い訳する。
「あ、それはナルトからイルカに渡してくれって頼まれていたものだから。」
透かさず綱手が口を挟み、シズネは呆れたように溜め息をついて、カカシは綱手を睨みつけた。
「老獪すぎますよ。人の好いイルカ先生を利用するなんて。」と御冠だ。


「まあまあまあ、いいじゃないか。」
年の功もあって綱手は、巧みにカカシを宥めた。
「これから、カカシは休暇だろ?イルカも一緒に休んでいいからさ。そうだ、三連休を二人にやろう。」
「本当ですか!」
途端、カカシの瞳は輝いた。
任務の疲れも吹っ飛んでいる。


「ああ、本当だとも。カカシは高ランク任務を終えてきたから休暇をとることに問題ないし、イルカの休暇変更もやっておくからさ。」
「やった!」
カカシは大喜びだ。
それに対して、イルカは困ったような顔になっている。
「あの、俺、受付けとかのシフトもあるのですが。」
「いいよ、なんとかするから。」
綱手は、ひらひらと手を振った。
「イルカ、仕事の手伝いありがとうよ。とても助かったよ。」
帰って休め、と綱手は言う。
「イルカさん、ありがとうございました。」
シズネにも、そう言われてイルカは、漸く帰れることになり、カカシに手を引かれて執務室を出て行った。


執務室の扉が閉まる前にカカシがイルカに、こう言っているのが聞こえた。
「俺の家の合鍵も持っていたのに、何で俺んち行かなかったんですか?」
「・・・あ、忘れていました。」
「全く、もう。」
カカシが苦笑するのが伝わってきたが、言葉は愛し気な響きを持っている。
そして執務室の扉は、ぱたんと閉まった。



それを見送った綱手が、ぽつりと言った。
「あの二人、仲、いいな。」
「そうですね。」
暫し、沈黙が落ちる。
「仕事するか、シズネ。」
「はい、綱手様。」
カカシとイルカの仲の良さに中てられたのか、黙々と仕事をする綱手とシズネであった。







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