そのうち(裏面)
イルカ先生とお付き合いして、もう三年目。
俺は上忍の控え室で本を読む振りを感慨に耽った。
そう、気がつくと三年目だ。
早いような遅いような、あっという間だったような。
俺とイルカ先生がお付き合いするようになったのはイルカ先生からの告白が切っ掛けだった。
まさか、と思った。
告白された時は、まさか、そんなと思った。
まさか、そんなイルカ先生に俺に告白?
それも愛の!
あの頑固者で意地っ張りで、それでいてお人よしなイルカ先生が言うのだから冗談とかではなかった。
イルカ先生は真面目で真剣で、真摯な態度で俺に告白してきた。
本気で。
あの時は嬉しかったなあ。
俺は本で、にんまりとする顔を隠した。
本当は俺の方から今日、明日にでも告白しようと算段していたのに。
いやあ〜、想いって通じるものなのね、としみじみ思った。
ついでに言ってしまうと俺がイルカ先生を好きになったのは、とっても些細な出来事が発端だった。
そこは長〜くなるので割愛するけれど。
とにかく、そんな訳で俺はイルカ先生が好きだったので告白された時は天まで舞い上がった。
そんでもって、勿論、付き合うことを了承したのだった。
ただイルカ先生はシャイな性格だと付き合ううちに、よーく分かったので俺たちが付き合っていることは一部を除いて伏せていた。
それに、もうすぐイルカ先生の誕生日だよなあ。
何をプレゼントしたら喜んでくれるかな。
プレゼントしたいものが両手に指じゃ足りないくらいある。
俺の愛を、どういう風に伝えよう。
一人でイルカ先生を思い出して俺は悦に入っていた。
ああ、イルカ先生、大好きだなあ〜と。
ふと控え室の扉の前に気配を感じた、愛しい人の。
愛しい人って、そりゃあイルカ先生に決まっている。
イルカ先生は時々、火影さまの用事なんかで控え室に来るから、それかな?
仕事中は、けじめをつけているつもりだけどイルカ先生に会えると嬉しくなってしまう。
なんか幸運マックスみたいな、今日はついているなあってさ。
今か今か、とイルカ先生を待ち構えていると同じく、上忍の控え室にいた知り合いが話しかけてきた。
・・・・・・俺はイルカ先生待ちなのに。
知り合いは写真を持ってきて俺に見せた。
それは他愛もない子供の写真。
子供が産まれたと、はしゃいでいた。
ついでに俺にも結婚やら子供の話題を振ってくる。
あーとか、ふーんとか適当に返事をしていたら、いつの間にかイルカ先生の気配は薄くなっていた。
あれ?おかしいなあ。
知り合いは尚も話を振ってくるので俺は、きっぱりと言ってやった。
「そのうち・・・」
俺が、そう言った時イルカ先生の気配は既になかった。
とりあえず俺は知り合いに「そのうち」の続きの啖呵を切り、知り合いはそれを聞いて絶句していた。
その後、イルカ先生は再び、上忍の控え室にきて書類を皆に配っていた。
心なしか元気がなくて、しょんぼりとしている。
俺にも書類を手渡しでくれたけど、目を合わしてくれなかった。
言葉少なに控え室を出て行ってしまった。
どうしたんだろう?
何かあったのかな?
イルカ先生のこととなると俺は落ち着かなくなってくる。
心配で、どうしようもない。
イルカ先生が立派な大人で自分のことは自分で出来るとしてもだ。
恋人としての立場から言わせてもらうと、それは無理な相談だった。
だって好きな人が落ち込んでいたら慰めてあげたいじゃないか。
傍にいてあげたいって自然な感情だろう。
ということで。
俺は控え室で待機しているのをいいことにイルカ先生の後を、こっそりと見つからないようにつけていった。
イルカ先生とつけて行くとイルカ先生は火影さまがいる部屋に入って行った。
火影さまが普段、仕事をしている部屋だ。
何かを二人は話している。
俺は気配を完全に消して部屋の扉に耳を押し付けた。
イルカ先生の声が聞こえた。
「別れ時って、いつなんでしょう?」
・・・・・・・・・わかれどき?
なに、何の話だ?
火影さまはイルカ先生をからかうと答えていた。
「三年目のジンクスとか言うよ」
くだらないことを言っている。
しかも「何事にも三年目には試練が訪れるということだ」なんて余計なことも。
イルカ先生は明らかに意気消沈している。
あー、もう、ショックを受けているじゃないか!
全く、火影さまは何を言っているんだと苛立ったけど、火影さまはすぐさまイルカ先生をフォローして元気を出せみたいなことを言っていた。
でもイルカ先生は元気にならなくて。
イルカ先生が部屋から出て来る気配がしたので俺は慌てて姿を隠した。
出てきたイルカ先生は肩を落として行ってしまった。
あー、イルカ先生の元気がないと俺まで元気がなくなってしまう。
火影さまは扉が閉まる前に慌てたように呟いていた。
「あー、やばい!イルカを落ち込ませたと知られたらカカシがここに来て嫌がらせに惚気話を聞かされる」
そうそう、火影さまは俺とイルカ先生の仲を知っている一部の人。
あとで、たっぷりと俺の幸せに満ちた惚気話を聞かせてあげよう。
たっぷりとねえ、ふふふふふ〜。
しかしだ。
火影さまのことは置いといて俺は考えた。
別れ時なんてイルカ先生、何で、そんなこと言い出したんだろう。
俺たちは付き合ってから喧嘩らしい喧嘩もしたことなくて順風満帆だと思っていた。
至極、上手くいっていると思っていたのに。
イルカ先生は俺に何か不満でもあるのかな?
上忍の控え室に戻ってきた俺は本を読みながら、とくと考える。
うーん。
喧嘩するほど仲がいいって言うけれど、喧嘩するようなことないからな。
意見の食い違いは合っても、それが残ったりしないし。
大体がとこ、俺はイルカ先生が応と言えば応で、否と言えば否で。
それでいいと思っているし。
それから、うーん。
誕生日を俺が忘れていると思っているのかなあ。
今日、晩飯後にも、ちゃんと訊いてみよう。
欲しいものがあるなら、それをあげた方が喜んでくれるよね。
で、あとは、うーん。
はたと俺はひらめいた。
「あれか!」
あれだな、きっと。
イルカ先生は俺に告白してくれたけど俺は、その時にイルカ先生をどう思っていたか?
それが気になるんじゃないだろうか。
俺なら、滅茶苦茶、気になる。
うんうん、そうだそうだ。
誕生日に何が欲しいか、訊く時に、それも一緒に伝えよう。
イルカ先生が告白してくれる前からイルカ先生が好きだったって。
三年目の告白か〜、ちょっとどきどきする。
次の日。
イルカ先生に俺の気持ちを伝えて、イルカ先生の幸せそうな顔を見た俺は益々、幸せになっていた。
昨日、家に帰る前に火影さまに惚気話を延々と話したけれど、今日も話せそうだった。
そんなこんなで俺は、とっても幸せで。
幸せに、どっぷりと浸っていたら昨日、俺に結婚云々語ってきた知り合いが寄ってきた。
「昨日、言ったこと本気か?」
半信半疑らしい。
なので俺は、もう一度、言った。
宣言したと表現した方が正しい。
控え室には他にも数人いたが、まあ、いいかな。
「本当も本当だ〜よ」
俺は律儀にも昨日の台詞を繰り返した。
「そのうち、目に物見せてあげるから」
にっこりと笑ってやった。
「俺が俺の最愛の人と世界で一番、幸せになっている姿をね〜」
ちょっと、まだイルカ先生の心情に考慮して内緒にしておくかもしれないけれど。
ついでに他にも色々、台詞を再現した。
イルカ先生だということを伏せて「俺の愛しのマイハニー」とか「可愛いマイスウィートハート」とか、他にもたくさん。
俺の愛読書である本の受け売りだったが気に入っている言葉を並べる。
すると知り合いは「それだよ、それ」と眉を顰めた。
「その赤面するような語群は言っていて恥ずかしくないのか?」
生真面目な顔で言ってくる。
「カカシ、もう三十歳だろう」
・・・そっちだったのか。
イルカ先生の誕生日は無事にお祝いできた。
プレゼントしたものをは総て贈った。
イルカ先生はとっても喜んでくれて。
贈った俺は心の底から贈ってよかったと思って。
幸せそうなイルカ先生は俺を幸せにしてくれる。
俺はイルカ先生を腕に抱き締めた。
そして言った。
「誕生日おめでとう、イルカ先生!」
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