AIで楽曲を楽器やボーカルに分離する


そのうち



カカシさんと付き合うようになってから三年目になろうとしていた。
月日が経つのは早い。
あれから三年目か〜。
俺は、もう二十六歳でカカシさんは三十歳だ。
あれから、とは色々あってカカシさんに告白して、そんでもって付き合うようになってからという・・・。
つまり、要するに、あれだあれ。
色々って恋愛的な何か・・・・・・だ。
思い出すと恥ずかしくて消えてなくなりたくなるので説明は省く。
ともかくカカシさんは男の人で男の人で。
そんな感じの告白だったのだが、カカシさんは俺を受け入れてくれて付き合ってくれて。
好きだと言ってくれて。
あれから、とても俺たちは上手く言っていると思っていた。
少なくとも俺は・・・。
だってカカシさんのことが、とっても好きだったから。



その日。
俺は上忍の控え室にいるカカシさんを含め、他の上忍の方々に連絡事項を書かれた用紙を持っていく用事を火影さまに言いつけられて上忍控え室まで来ていた。
中から数人の気配と共にカカシさんの気配もする。
仕事中とはいえカカシさんと会うのは、どきどきしてしまう。
いつも、どきどきするけどね。
それは好きすぎるからだ。
カカシさんが好きすぎて、どうしようもない。
ちょっと好きすぎて、変かもなあという自覚はある。
・・・といってもカカシさんに対する俺の好きが減るなんてあり得ないけど。
上忍控え室の扉を開けようとするとカカシさんの声が聞こえてきた。
誰かと話しているらしい。



悪いと思ったけれど俺は聞いてしまった。
俺のいないところで話すカカシさんに興味があったからだ。
でも、後で聞くんじゃなかったと死ぬほど後悔したけれど。
「よーう、カカシ。写真見るかー?」
「何の写真?」
「俺の子供の。先月、産まれたんだー」
すっげー可愛いの、と誰かが自慢している。
「ふーん」
関心なさそうなカカシさんの声。
「もう、目に入れても可愛くないほど可愛いんだー」
「へえー」
「いやー、いいよー。子供は!」
「あー、そう」
「カカシも早く結婚して」
この言葉に俺は、どきりとした。
どきどきじゃなくて。
「所帯を持って子供を作ったらいいんじゃないか?」
この言葉には、ずきりとなった。
息が止まりそうになった。



カカシさんが結婚・・・。
カカシさんの子供・・・。
それは俺に重く圧し掛かってきた。
押し潰されそうになってくる。
カカシさんは何と答えるんだろう。
上忍控え室を開けようとしていた手が止まり、ぱたりと落ちた。
「ん〜、そうだ〜ね」
カカシさんののんびりとした声が聞こえてきた。
ごくりと唾を飲み込み、俺は悪いと思いながら聞き耳を立てる。
「そのうち・・・」
だけど俺が聞けたのは、そこまでで。
その先が聞きたくなかった俺は一目散にその場から逃げ去った。
火影さまの用事も放って。



胸が、ばくばくして止まらない。
カカシさんは『そのうち』の後になんて言おうとしたのだろうか。
そのうち俺も結婚するから問題ない、とか?
そのうち俺も子煩悩になるよ、とか?
そのうち俺も幸せな家庭を持つから余計な心配だ〜よ、とか?
・・・カカシさんには、その権利がある。
幸せになる権利が。
そのカカシさんの幸せの障害になるのが、現時点では俺で。
その事実に俺は切なくなってしまった。
俺じゃあ、カカシさんを幸せにしてあげられない。
好きなだけじゃ駄目なんだと痛感させられた。
気がつくと火影さまの執務室まで戻ってきていて書類を渡してこなかった俺は火影さまに叱られた。



「駄目じゃないか、イルカ」
火影さまは俺を叱った。
「この書類は今日中に渡さないと駄目なんだって言っただろう。しかも手渡しで本人に直接だ」
「はい、すみません」
俺は小さくなる。
私事で仕事をほっぽり出しては忍としていうより、大人として駄目だ。
「もう一度、行ってきます」
俺は火影室を出て、とぼとぼと上忍控え室に行って、きちんと書類を渡すことに成功した。
控え室にカカシさんもいたけれど目を合わすことは出来なかった。



書類を渡して火影さまに、きちんと渡したことを報告すると火影さまは頷いた。
「ありがとう、イルカ。あの書類は信頼のおける者にしか頼めないんでね」
つまり火影さまは俺を信用してくれている。
「さっきは叱ってしまってしまったけれど」
火影さまは膨大な書類の山から顔を上げて俺を見た。
「イルカがミスするなんて珍しいじゃないか。悩みでもあるのかい?」
俺を気遣ってくれた。
その優しさに俺は思わず、訊いてしまう。
俺より経験豊富な恋愛経験を持つだろう、年上の女性に。
「あ、あの」
「なんだい」
火影さまの穏やかな声に押されて俺は言った。
「つ、付き合ってからの、わ・・・。」
息を吸って落ち着いて、と深呼吸する。
「別れ時って、いつなんでしょう?」
言うと火影さまは、ふむと眉根を寄せた。
「それって誰の話しだい?」
ちょっと瞳に好奇心が宿っている。
女性が恋愛話を好きなの忘れていた・・・。



「だ、誰って、えーとですね」
まさか俺だとは口が裂けても言えない。
「あ、一般的な話です。例えば、でいいので」
「ふーん」
火影さまは意味ありげに笑って答えてくれた。
「イルカも大変なんだねえ」
「俺の話じゃありません!」
「はいはい」
「まああ、そうだねえ」
口元を、にやりとさせる。
「三年目のジンクスとか言うよ」
「三年目のジンクス?」
「そうだ。恋愛ばかりじゃないが何事にも三年目には試練が訪れるということだ」
「そうですか、三年目・・・」
三年目に俺は言葉を失った。
だって俺とカカシさんは付き合って三年目。
三年目のジンクスってことは・・・。
カカシさんと俺は別れてもおかしくないってことなのか!



ショックを受けて無言で立ち尽くす俺を五代目は慌てたように慰めてくれた。
「イルカ?おい、イルカ!」
「・・・・・・はい」
「大丈夫かい?例えばの話だからね、今のは。世の中、全部がこれに当たるわけじゃなし、そんな気を落とすな」
「すみません」
「ただの噂話の一つだから気に病むな」
「分かっています」
「うん、じゃあ、通常の業務に戻ってよし」
「失礼します」
退室して、ばたんと火影さまがいる部屋の扉を閉める。
閉める間際、火影さまの声が何事かを呟いていた。
「あー、やばい!イルカを落ち込ませたと知られたら・・・」
そこでカカシさんの名前が聞こえたような気がしたけど、多分、気のせいだろう。



夜になった。
仕事を終えて家に帰ってきた俺は昼間に火影さまから聞いた話が忘れられなくて上の空で晩飯を作っていた。
もうすぐカカシさんが帰ってくるんだけど、どんな顔で出迎えたらいいんだろう。
何を話したらいいんだろう。
考えるが答えは出ない。
悪い方向ばかりに考えがいってしまって、別れを切り出されたら素直に了承しようとか、カカシさんに迷惑をかけないようにしようとか、そんなことばかりだった。
前向きな俺は遥か彼方に消え去ってしまった。
あー、どうしたら・・・。
そうこうするうちにカカシさんが帰ってきた。
「ただい〜ま、イルカ先生」
玄関先からカカシさんの声がする。
「あ、お帰りなさい」
なんとなく台所で立ち往生しているとカカシさんが俺のところに来た。
「ん〜、いい匂い」
「あ、ご飯出来てますけど食べますか?それとも風呂が先・・・」
「ご飯がいいです」
にこりと笑ったカカシさんは機嫌が良さそうだった。
てきぱきと食事の準備を手伝ってくれる。
ほんと、いい人だな・・・。



「美味しいです!」
カカシさんは俺の作った飯をお代わりもして、たくさん食べてくれた。
「イルカ先生のご飯が一番好きです」とも言ってくれて。
対して俺は胸がつかえて、碌に食べられなかった。
「そうなら良かったです」
ようやく、おかずを口に運んだ。
「・・・カカシさん」
「はい?」
「これ、何で食べたんですか?」
「だって美味しかったから」
何気なく答えるカカシさんだったが、これ!
この料理、塩と砂糖が間違っている〜!
激甘だった・・・。
カカシさん、甘いものが苦手なのに悪いことをした。
俺が正直に塩と砂糖が間違ったことを告白するとカカシさんは何でもないように言ってくれた。
「そういう料理かと思っていました。でも美味しかったですよ」と。
優しい人だなあ。
俺は心の中で、ちょっと、ほろりとしてしまった。



ご飯が終わってカカシさんが片付けてくれて、食後のティータイム。
カカシさんが、いつになく真面目な顔をして俺に言ってきた。
「イルカ先生、お話があります」
どきーん、と胸が鳴った。
もしかして、あれかな、やっぱり。
さっき、考えていたことかな・・・。
カカシさんは背筋を伸ばして姿勢を正している。
俺も倣って姿勢を正した。
「なんでしょう?」
「えっとですねえ」
真面目な顔のカカシさんが言い難そうに頭をかく。
「なんて言ったらいいのか・・・」
じっと待つ俺。
言われたら何と答えるか、既に決めているので気持ちを落ち着けている最中だ。
「実はですね」
ひそっとカカシさんが内緒話でもするように俺に囁いた。
「イルカ先生、誕生日のプレゼント、何がいいですか?」



たっぷりと沈黙してから俺は言った。
「は?」と間抜けな言葉を。
「誕生日?俺の?」
「そうですよ、もうすぐですよ」
五月二十六日でしょ、とカカシさんに突っ込まれた。
「ああ、そういえば」
すっかり忘れていた、誕生日なんて。
「何をあげたらいいのか、迷っていましてね」
カカシさんが指を折りながら言った。
「服に本、ペアカップにペアリング。誕生日のご飯はどっかで食べるとして」
何にするか、もう迷って迷って〜と照れている。
「ほら、付き合って三年目でしょう?記念になるものをプレゼントしたくて」
カカシさんが俺の手を取った。



「イルカ先生のことが、とっても好きです」
じーんとカカシさんの言葉が俺の胸に染み込んでくる。
「告白されたとき、とっても嬉しかったんですよ」
衝撃の事実も教えてくれた。
「本当は俺から告白したようと思っていた日にイルカ先生に告白されて運命を感じました」
ロマンチックなことも言っている。
「これからも、ずっとずっとイルカ先生のことが好きですから」
仲良くしましょうね、と言われて。
俺は生きてて良かったと心から思った。
幸せだった、とっても。
ありがとう、カカシさん。
その言葉だけで誕生日プレゼントには充分だと俺は思った。



次の日、火影さまを会うと朝、一番に言われた。
「ぜんっぜん、心配ないじゃないか!」
「え?」
「イルカは幸せだってことだよ」
「あの・・・」
「イルカが帰った後、用もないのに、ここに来たカカシに散々、自慢されたよ」
「え!」
「上忍控え室でも調子に乗って自慢していたって話だ」
それだけ言われた。
・・・まあ、カカシさんの発言『そのうち』の真相は解らないけれど。
解らない方がいいのかもしれないと悟った俺であった。



誕生日にはカカシさんは、たくさんのプレゼントをくれた。
結局、一つに決められなかったらしい。
プレゼントも、とても嬉しかった、でもね。
「誕生日おめでとう、イルカ先生!」
その言葉と、なによりカカシさんが俺の傍にいてくれることが一番嬉しくて。
最高の誕生日だった。





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