先行く相手
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わたしの一歩あなたの百歩



イルカは枝から枝へと身軽にジャンプした。
任務が終わり、里へ帰る途中だ。
久しぶりに任務を受けた。
「緊張するよなあ、任務って」
もう少しで里ということで、つい気が緩んだのか、ぽろりと言葉が口から出る。
「定期的に任務をしないと体も鈍ってしまうし」
ひゅるると飛ぶには、いささか距離がある枝へとジャンプした時だった。
「あ!」
枝に乗り損なって、足が滑ってしまった。
「っととと」
慌てて足にチャクラを集中させて、木に留まる。
・・・のだが、足場が悪かったのか、ふうと息を吐いた瞬間に落下してしまった。
「や、やばっ!」
落下しながら急いで体勢を変えて、地面にぶつかる衝撃を和らげようとした。
結果的に、それは成功したのだが。
「あいててて」
体の一部、したたかに右肩を打ちつけてしまった。
「いててて」
動かそうとすると痛みが全身に走る。
足を滑らせて木から落ちて、肩を痛めるなんて情けない。
「任務帰りでこれかよ・・・」
自分で自分に溜め息を吐き、イルカは痛みが治まるまで動くのを控えることにした。
里が近いので救援を呼ぶこともできたが、理由がなんとも言い難い。
「格好悪すぎるよなあ」
日頃の訓練を怠っていたわけではないのだが、久しぶりの任務に感が鈍くなっていたのは否めない。
おまけに痛み止めも忘れてしまっていた。
油断があったのかもしれない、簡単な任務だからという。
「うーん、備えあれば憂い無しだなあ」
痛みが治まるまで、イルカは一人で反省会をすることにした。
「もっと体を鍛える、任務はどんなランクでも油断は禁物、持ち物は常にチェック、里に着くまで気は抜かない」
少しだけ痛みが治まったので立ち上がってみることにした。



左手で右肩を押さえて、よろよろと立ち上がったのだが・・・。
「う・・・」
顔を顰めたイルカは手近な木の幹に体を寄り掛かり座り込んだ。
「もうちょっと、休むか」
この痛みだと肩は脱臼はしていないが、捻挫はしているかもしれない。
「さすがに骨折はないよな」
骨が折れていたら、アカデミーの授業や受付業務に差し障る。
他にも任務には行かずとも里内でのイルカの仕事は多々あった。
それらの仕事ができなくなると周囲に多大な迷惑がかかる。
「はあ」
座り込んだイルカは空を見上げた。
木々が生い茂って、葉の隙間から空は少ししか見えない。
その空も夕暮れが近いせいか、菫色に染まってきている。
心なしか、風が冷たくなってきた。
肌寒くなってきていた。
里に早く帰りたい。
そう思ったイルカは傷めた肩を動かさぬように、そろそろと立ち上がる。
痛みは、だいぶ治まってきたような気がする。
ゆっくりと帰れば大丈夫かもしれない。
そう思ってイルカが歩き出そうとしたとき、何かに引っ張れた。
しかも髪の毛を。
「なんだ?」
びっくりして、引っ張られた付近に手を伸ばす。
「あ、これ・・・」
運が悪いことに髪の毛が枝に引っ掛かっていたのだ。
立ち上がった場所が悪かったのかもしれない。
とことん、運がついてないイルカだ。



「木の枝が髪に絡まっているじゃないか」
しかも、寄りによって髪の結び目に。
イルカは肩より少し長い髪を頭の天辺で結っていた。
その結ってある紐と髪が木の枝に絡まったのだ。
「ついてない・・・」
がくっと肩を落としたイルカは利き手である右手は肩を傷めたために動かせず、左手だけで木の枝から髪紐と髪を解くことを試みた。
「なんだ、これ」
訳分からん、とイルカは自分からは見ることができない、絡まった箇所を解くの必死だ。
解こうとすればするほど、絡まっていくような気がする。
どんどん、ぐしゃぐしゃになっていく。
「あ、額宛が邪魔かも」なんて思って外そうとした額宛も、結局、絡まっていたのでは話しにならない。
「あー、もう!」
いらいらが溜まっていくが、どうしようもない。
影分身を出して、もう一人の自分に解いてもらえばいいと思うのだが、肩が痛くて印が組めない。
こんなことをしているうちに肩の痛みが増してきたような気がした。
「さっぱり分からん、何がどうなっているんだ?」
いらいらが頂点に達したイルカは足のホルダーからクナイを取り出した。
手っ取り早く切ってしまえという算段だった。
木の枝ではなく、自分の髪を。
「ここら辺かな?」
見えないので、適当に中りをつけてクナイを添える。
そしてクナイで髪を切り落とそうとした、正にその時。
「イルカ先生?」
名前を呼ばれて動きを止めた。



「イルカ先生、何をしているんですか?」
自分の名を呼んだのは知り合いの上忍であった。
こんな森の中を通るということは、きっと任務帰りか任務に行く途中なのだろう。
醜態を見られたことにイルカは恥じて、俯こうとしたが髪が引っ掛かっている今は不可能であった。
顔が熱くなる。
「あ、カカシ先生」
知り合いの上忍カカシ先生とは、新年度から新しく上忍師となった人物だ。
本名をはたけカカシ。
イルカの元教え子たちの上忍師。
しかも、この上忍は二つ名を持つほど名高く、実力も中忍のイルカとは段違いだった。
そんな忍者に現在のイルカの状態を見られたら、嫌にもなる。
恥かしくて、あっちに行ってくれと言いそうになる。
「え、えと、あのですね」
赤くなったイルカは理由を説明するのに、躊躇する。
みっともない理由だったから。
余りにも間抜けで、それでも忍者かと言われてしまうかもしれない。
元教え子が世話になっているのに、その先生がこれで軽蔑されてしまうかもしれない。
そんな考えがイルカの頭を駆け巡る。
口篭ったイルカに構わず、すたすたとカカシが近づいてきた。
イルカの背後に回る。
「あー、木の枝が髪に絡まって、こんがらがっていますね」
ひどい有様だ、と言われて、そうしたのは自分でもあるのでイルカは身を縮こまらせる。
「ちょっと待って」
カカシがイルカの髪に触れた。
「解くから」
「そ、そんな!」
焦ったイルカは手に持っていたクナイをカカシに差し出した。
「解かなくていいですから!これで髪を切ってください!」
しかし、カカシはクナイを受け取らない。
「切らなくてもいいじゃない。きれいな髪なんだから、もったいないよ」
「え・・・」
きれいな髪なんて言われたのは初めてでイルカは、びっくりして固まった。
きれいな髪・・・。
まあ、毎日、洗髪はしているのできれいだとは思うが。
「見た目より柔らかいんですね、イルカ先生の髪」
「はあ、ありがとうございます」
ここは礼を言っておくべきなのだろうか。
「意外に長いし。髪を括ってないイルカ先生、初めて見ました」
なんと答えればいいのか。
カカシは勝手に話していく。
「髪を括ってない方が俺は好みですね」
「え・・・」
何か、おかしなことを言われたような気がする。
「髪を括って項が露わになるのもいいんですけど。髪を下ろして、その間から見える項ってすごく色っぽいと思うんです」
・・・これってカカシ先生の趣味?女の人の?
どういう考えで言っているのか、聞きたくもあり聞きたくもなしという状況だ。
「イルカ先生って、浴衣が似合いそうですよね」
浴衣を着て開いた胸元から鎖骨が見えるのも捨てがたい、と何やら言っている。
イルカは、だんだん混乱してきた。
カカシ先生は誰の事を言っているんだ・・・。
そうこうするうちに木の枝に絡まった髪が解けた。



「はい、終わりましたよ」
カカシの声で振り返る。
にこっと笑ったカカシに髪紐と額宛を渡される。
「あ、りがとうございました」
「ん〜」
渡した髪紐をカカシは奪い返した。
「髪を括ってあげましょう」
「え、いや、そんな」
上忍の人にそんなことまでさせられない。
「いえいえ、遠慮なさらずに。髪を下ろしているイルカ先生は俺だけのものってことで」
もはや、イルカに言葉はない。
・・・カカシ先生に言葉が通じないような気がする。
というよりカカシが言っている言葉の意味が不明だ。
なんか、大変な誤解があるみたいなんだけど。
好みだとか色っぽいだとか、イルカとは縁のない言葉である。
イルカが一生懸命考えている間にカカシは手際よく、イルカの髪を手ぐしで梳かして纏めていく。
きゅきゅっと髪を紐で括ればできあがりだ。
「はい、できあがり」
「どうもありがとうございます」
「うん、この髪型もいいですね」
自分が括ったイルカの髪を見て、カカシは満足げに目を細める。
「髪の括り方一つでも、人に寄って違いますね」
イルカを見て「俺好み」と一人で、うんうん頷いていた。



「さ、じゃ、帰りますか」
カカシは、どうやらイルカと同じく任務の帰りらしかった。
「気の進まない任務だったけど、イルカ先生に会えてラッキーでした」
俺が通りかかってよかったです、と。
「イルカ先生の髪が危うく切られるところでしたし」
「はあ、それはどうも・・・」
いまいち、カカシと会話が噛み合わない。
絡まった髪を解いてくれたことには感謝しているが。 「行きましょう」と言われたところでイルカは肩を傷めていたこと思い出した。
ずきずきとした痛みがある。
このような状態では、いつものように走るのには無理だ。
ゆっくり帰ることになるだろう。
なのでイルカはカカシに先に行ってくれるように頼んだ。
「俺は後から行きますので」
「ん?イルカ先生、肩をぶつけて痛いの?」
「まあ、そんな感じです。あいにくと鎮痛剤も忘れてしまって」
「そう」
カカシは備品が入っている腰のポーチから何かを取り出した。
「はい、痛み止め」
白い錠剤を指先に挟んでいる。
「これを飲むと痛みが和らぎます」
即効性ですとの説明付だった。
カカシに「どうぞ」と言われては断りにくい。
「すみません、ありがとうございます」
そう言ってイルカは錠剤を受け取ろうと手を出した。
水無しでも飲めるだろう。
だが。
カカシは錠剤を自分の口に含んだ、と思ったら、その顔が近づいてきて。
初めて見るカカシの顔にイルカは見蕩れてしまう。
この人、こんな顔だったんだ・・・。
格好良過ぎる、世の中不公平だなんて思っていたら。
項にはカカシの手が回っていて。
口付けられてしまった。
ごくり、とイルカの喉が鳴る。
触れたカカシの唇から錠剤がイルカの唇を押し開けて入ってきたのだ。
仰天して為すがままのイルカは飲み込んでしまった。
そしてカカシの顔は離れていく。



「・・・これは」
いったい、どういう状況なのか。
何が起こったのか、イルカは混乱する。
一般的にキスと呼ばれる行為だと思うけど、え、でも何で?
カカシ先生が俺にこんなことする理由なんてあったけ。
ないよな、と思ってカカシを見れば下ろしていた覆面を既に戻していた。
「よく効く痛み止めですから、すぐに痛みは治まりますよ」
それと心配なので俺もイルカ先生と一緒に帰ります、と言ってくれた。
「ありがとうございます、何から何まですみません・・・」
一応、お礼は言ってみたものの。
あの口付けは単に薬を飲ませるためだったのか。
でも薬を飲ませるのなら渡してくれれば、自分で飲めるのに。
悶々とイルカが考えているとカカシの手がイルカの痛くない方の手に伸びた。
手を握られた。
にこりとしたカカシに「帰りましょう」と促される。
「はい」
「里に帰ったら病院で診てもらった方がいいですよ」
「はい」
頭の中は混乱しているが、カカシの親切は素直に受け取ることにした。
悪い人じゃないみたいだし。
中忍の自分をこんなにも気に掛けてくれるなんて、いい人だと逆にイルカは思った。
ちょっと変わった人なんだろう、上忍はそういう人多いと聞くし。
そう自分を納得させた。
そして無事にカカシと共に里に帰りついたのだった。



後日。
「ねえ、なんでイルカ先生はカカシ先生といつも一緒にいるの?」
子供の何気ない質問だった。
「えっ。え、それは・・・」
質問されたイルカは、うろたえた。 偶々、里内のお遣いの途中、イルカはカカシに教えられている元生徒たちを見かけた。
休憩時間だったのか、子供たちがイルカに駆け寄ってきて、久しぶりに会ったものだから話が弾んだ。
子供たちと話している後ろでポケットに両手を突っ込み、うっそりと立ったカカシがイルカを見つめている。
視線が痛いほど刺さってきてイルカは、どぎまぎとしてしまう。
そんな中でも子供の無邪気な質問だ。
「いつも一緒って。そんなにいつも一緒かなあ・・・」
イルカが聞きかえると質問してきた子供は大きく頷いた。
「そうよ、イルカ先生と見かけると高確率でカカシ先生が隣にいるわ」
「そういえば、そうだってば」
他の子供も同意する。
「カカシ先生とイルカ先生って友達なの?」
無邪気な子供はある意味、はっきりと物事を聞いてくる。
それはアカデミーで子供を指導しているイルカは、よく分かっているのだが。
今は勘弁してほしかった。
「朝も一緒に通勤しているのを見かけるし、帰りも一緒に帰っているんでしょ?一緒に食事もしたりしているんでしょ?友達じゃないの?」
「う、それはな」
眉を八の字にして困り顔のイルカは子供たちと同じくらいの高さに屈むと、こそっと秘密でも話すように小さい声で言った。
「あのな、友達じゃないんだよ・・・」
「じゃあ、なに?」
子供は容赦なく、突っ込んでくる。
「一緒にいるのは仲がいいからでしょう?」
「な、仲はいいかな〜」
「ふーん」
「実はな・・・」
こしょこしょとイルカは耳打ちをした。
「俺にも、よく解らないんだが」
とうとう、子供たちに悩みを打ち明けてしまった。
「なんか、カカシ先生と俺ってさ、つ、付き合っているみたいなんだ・・・」
「えーっ!」
子供たちが大きな声を上げる。
「付き合うって恋人みたいな?」
子供たちの中でも精神が成熟している女の子が目をきらきらさせた。
恋に憧れる年頃だ。
「恋人なんて素敵!・・・あれ、でも男の人同士?」
言ってから首を傾げている。
「あははは〜」
遠い目をしたイルカが抑揚のなく笑う。
「もうー、イルカ先生はー」
後ろから声が聞こえた。
カカシの声だ。



「何を言っているんですか」
怒っているように聞こえる。
「恋人として、俺たち、ちゃんと付き合っているでしょう」
きっぱり恋人宣言だ。
「何回も説明したのに解ってないんだから」
不満そうにしているが。
子供たちがいる所為か、イルカが勇気を振り絞ったように反論した、弱々しかったが。
「せ、説明たって、よく解りませんよ、あれじゃ!任務帰りに偶然会ったから運命だとか、赤い糸で結ばれているとかって、さっぱり解りません」
恋人なんて、いきなり言われても実感がないってか、恋人なの?って感じです、とイルカはカカシを睨んでいる。
睨んでいたがカカシに睨み返されて、すぐ目を逸らした。
「あれ?」
カカシが何かを思い出したように頭を掻く。
「もしかして、俺、告白とかしていなかった?」
「・・・してないです」
告白って何だ?と子供たちは興味津々でカカシとイルカの会話に聞き耳を立てている。
「好きっていうのは?」
「・・・初耳です」
「うーんとさ」
カカシは珍しく慌てたようだった。
周囲からは、ちっともそんな風に見えなかったが。
「俺、先走っていたみたい。どうも浮かれて、俺の頭の中だけで事が進んでいたみたい」
「はい?」
「うん、ごめんね」
イルカの手を掴むとカカシは子供たちに言った、というか命令した。
「後は自習にしておいて、大事なことを忘れていたから」
そうしてカカシとイルカは、どろんと消えた。
カカシの言う大事なこととは何だろう?
子供たちは首を捻ってみたが思いつかず。
大人の世界は不思議がいっぱいってことだけは理解できた。



そして次の日。
妙に機嫌のいいカカシと照れくさそうに、だけども嬉しそうなイルカを見かけた。
二人の手は、しっかりと握られていたのだった。







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