そんな正月
「幸せです」
イルカは、しみじみと言った。
「こんなに幸せでいいのでしょうか?」
うっとりと目を閉じる。
正月から三日、カカシと休みが重なり一緒に過ごした。
「年の初めから、こんなに幸せで今年一年の幸せを全部使い切ったような気がします」
「もう、イルカ先生は大げさだなあ」
イルカの隣でこたつに入っていたカカシは、にこにことして応じた。
「幸せなんて、これからまた幾らでも望むままになれますよ」
「そうですか?」
「そうですとも!」
カカシは自信たっぷりだ。
「俺はイルカ先生がいれば、いつだって幸せですから」
「俺だって」
そう言って恋人たちは見つめあい、唇と触れ合わせた。
「と、まあ、それはそれでいいんですけどね」
急に現実的になったイルカは隣にいたカカシをこたつから押し出した。
「ちょっとカカシさん、狭いですって!他のところが空いているでしょう」
「えー、やだ」
カカシは小首を傾げて可愛く抗議する。
「イルカ先生と一緒がいいでーす」
「一緒っていっても・・・」
イルカは眉を潜めた。
「こたつは四つの面があるのに、その一つの面に男二人が窮屈そうにして無理くり入らなくても・・・」
困っている。
「えー、それは冬の醍醐味ですよ〜」
「醍醐味って・・・」
「恋人の特権です」
「広い方がいいと思いませんか?」
「ぜんぜん」
カカシは頑として譲らず話にならなかった。
「で、でもですねえ」
それでもイルカは無駄な抵抗をしていた。
「本当に狭いと思いませんか?」
「全く」
そう言ってカカシは、ぴたりとイルカに体を密着させてくる。
カカシの体温も匂いも大好きだがイルカは狭いスペースで体をずらしてカカシから離れた。
するとカカシは開いた距離の分だけ体を寄せてくる。
そんなことを繰り返してイルカは観念して、こたつを出た。
「あ、どこに行くんですか、イルカ先生」
「移動です」
カカシが入っていない面の方へ移動した。
「えー、寂しいですよ〜」
言った瞬間、カカシはイルカの隣にいた。
上忍なので瞬時の移動はお手のものだ。
ちゃっかりイルカの隣に来て更に密着し離れようとしない。
「ちょっとカカシさん」
イルカは少し顔を赤くして、もぞもぞと動いた。
「あんまり、くっ付かないでもらえると嬉しいんですけど」
居心地悪そうにしている。
「そう?んじゃ控えます」と言いながらカカシは嬉しそうにイルカにくっ付いた。
「だから、くっ付かないでくださいって」
カカシを押して引き離そうをするが生憎とカカシの方が力は強い。
普段は、そんなこと感じさせたりしないがが肝心なところでは主張する。
にこにこと笑みを浮かべるカカシは楽しそうだった。
「今日で正月の休みは最後だし、くっ付いて過ごしましょうよ」
そんな提案もしてくる。
「くっ付くのは正月でなくともできるでしょう」
イルカはカカシを懸命に押す。
びくともしないが。
それが悔しくて、必死に押してみるがちっとも動かない。
とうとう、押し疲れたイルカが息を切らし始めるとカカシはイルカに、こっそりと耳元で囁いた。
「何で、くっ付いたら駄目なの?」
理由を教えてくれたら、くっ付くの止めてもいいかもよ、と提案してきたのだ。
「え、理由?」
「そうです」
カカシは、にやーっと笑って、ますます楽しそうにしている。
こういう時のカカシは引くことがない。
それは経験上、嫌というほど分かっている。
理由はあるけど、口に出すには少々恥ずかしい理由だった。
忍者としてのプライドに関わるような・・・。
「ねえねえ、誰にも言いませんから教えてくださいよ」
カカシはイルカに擦り寄りながら強請ってくる。
イルカのことは何でも知りたいのだ。
うーん、どうしよう・・・。
イルカは心の中で葛藤する。
言ったらカカシに笑われるかもしれない。
それに第一、本当に恥ずかしい。
だけどもイルカは観念した。
だってカカシが真顔で言ったのだ。
「恋人の俺にも言えないことなんですか」
目が笑っていなかった。
新年早々、喧嘩は勘弁だった。
「本当に誰にも言いませんね?」
イルカが念を押すとカカシは深く頷いた。
「誰にも言いません」
「実はですね」
カカシの耳に口を寄せるとイルカは理由を囁いた。
部屋にはカカシとイルカの二人しかいなかったのだけど。
「・・・・・・それだけ?」
理由を聞いたカカシは変な顔をしている。
肩透かしを食ったような感じだ。
もっと別の深刻な理由だと思っていたらしい。
「理由って、それだけなの?」
確認してくるカカシにイルカは体温が上がってくる。
それだけって言うけど、充分に恥ずかしいと思うんだけど!
カカシさんは違うのかな?
とにかく俺は情けなくて恥ずかしいんだー!
心の中で言い訳していたのだが、いつの間にか口に出ていた。
「だって正月、寝て起きたらカカシさんが色々と正月の準備してくれていて、すごく嬉しくて」
「あー、それは、あちこちにリサーチして準備万端にしたんだよね」
「なのに、俺は特に準備していなくて、迷惑掛けて」
「迷惑なんて思っていませんよ〜、好きな人のことなんだから」
「そうやって、いつも優しいから俺が甘えてしまうんです」
「今年も、たくさん甘えてね。あ、俺も甘えますから」
「カカシさんは傍にいるし、仕事は休みで、美味しい物が山のようにあって」
「イルカ先生が美味しく食べてくれたらいいんです」
「寿司に蟹に海老に、豪華な御節に幻の酒に、そば粉十割の年越し蕎麦に・・・」
「蕎麦は年越してから食べちゃったけどね」
「蕎麦、めちゃくちゃ美味かったですよ!で、お取り寄せのラーメンにお雑煮は手作りでびっくりだし」
「お雑煮、作るの初めてだったんですよ〜」
「すごく美味くてお代わりしちゃいました。お餅も美味しくて」
「あー、それは買ってきたんです。来年は餅つき出来たらいいですね」
「それに酒の肴も格別で、正月、ずっと食べていましたよ」
「うん、たくさん食べたねえ」
カカシは満足そうだった。
「イルカ先生、たくさん食べてくれたから俺も嬉しくて。頑張った甲斐がありました」
俺って甲斐性あるでしょう?とアピールしていた。
「それは認めます」
イルカは頷いたのだが、はっとして首を横に振った。
「違います、問題はそこじゃありません」
ばっと立ち上がったイルカは己の体を指差した。
「見てください!」
「はい」
何故か正座したカカシはイルカを見る。
妙に真剣だった。
「正月の三日間で、どう見ても俺、目方が増えたじゃないですか!」
要は体重が増えた、とイルカは言いたかったのだ。
「この正月、カカシさんと美味しい物が食べれて俺はとても幸せでした。でも・・・」
悲しい顔をする。
「今朝、体重計に乗ってみたら増えていたんです」
・・・体重が、と吐き出した。
「だから、つまりですね」
太ってしまった自分を恥じてイルカはカカシにくっ付くな、と言っていたのだ。
それをカカシは「それだけ?」と一言で言い表した。
「別に俺はイルカ先生が太ったなんて思っていませんよ」
それに、とカカシは驚くべきことを告白してきた。
「俺だって正月で体重が増えましたよ」
「え、本当ですか?」
「本当ですよ、イルカ先生と同じものを食べていたんだから体重が増えて当然です」
そう言ってカカシはイルカを安心させた。
「俺はどんなイルカ先生も大好きですよ」
カカシは言ってイルカにキスをする。
「俺も同じです、カカシさんが好きです」
イルカもカカシにキスをした。
なんだかんだで今年も二人は仲良さそうで。
カカシとイルカにとって幸多き一年になりそうであった。
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