悩める誕生日
「カカシ先生!もうすぐ誕生日ですね」
ある日、イルカ先生に言われた。
「それで誕生日プレゼントを用意したんですけど」
そこで言葉を切ったイルカ先生は、にっこり笑った。
魅惑的な笑顔だ。
大好き。
それに俺の誕生日を覚えていてくれたんだ〜。
感無量!
もうすぐ俺の誕生日。
イルカ先生は何を用意してくれたんだろう。
俺とイルカ先生、お付き合い前提のお付き合いをしている。
お付き合い前提のお付き合いの提案をしてくれたのはイルカ先生だったが俺は、もうずっとイルカ先生のことが好きだった。
好きすぎて夜も眠れないほど好きで好きで好きだったのだ。
同性同士だったが、それを差し引いてもお釣りがたんまり来るくらいイルカ先生のことが好きなんだ。
なんで好きなのかって言われても、一目会ったその日から恋の花が咲いてしまったのだからしょうがない。
咲いた恋の花は枯れることなく、俺の心の中で日に日に瑞々しさを増していった。
いつイルカ先生の告白しよう、今日にしようか明日にしようか明後日にしようか明々後日にしようかと迷いに迷って悩みに悩んで。
遠くから近くから間近からイルカ先生をひたすら見ていたらイルカ先生の方から提案してくれたのだ。
「いっぺん、お付き合いしてみますか?」
挑むように俺を睨みつけるイルカ先生。
挑戦的だったけど、きっと照れ隠しだろう。
もちろん俺は喜んだ。
「いいんですか!本当に?俺はいつでも準備万端です!」
即、オッケーを出した。
「え、ええ、まあ。いいですよ、はい」
俺の喜びようにイルカ先生は引いていた。
てっきり断られると思ったに違いない。
そんなことは絶対にないのに。
「あ、でも」
イルカ先生は慌てたように付け足した。
「お付き合いっていっても」
念を押してくる。
「お付き合いするかどうかを決めるお付き合いですよ?」
「分かりました」
俺は了承した。
どんなお付き合いでもイルカ先生とお付き合い出来るならいいと思ったのだ。
イルカ先生は右手の人差し指、中指、薬指の三本を立ててきた。
「プレゼントは選択制で三つあります」
「三つ!」
三つもあるのか、わくわくするなあ。
「まず一つ目は」と言ってイルカ先生は分厚いノートを差し出してきた。
「一年間の交換日記」
交換日記、すごく惹かれる言葉だ。
ロマンチックな雰囲気が漂っている。
「で、二つ目は」
イルカ先生はポケットから何かを取り出して俺の目の前に晒した。
銀色に光る、それは・・・。
「俺の家に鍵です」
「イルカ先生の家の鍵!」
「鍵をゲットしたら俺の家に出入り自由です」
おお、すごい!
実はイルカ先生の家の中に入ったことがなかった俺だ。
イルカ先生も俺の家に上がったことはない。
何しろ、お付き合い前提のお付き合いだったから。
いわば、友達みたいな関係だったんだよね。
だから手を繋いだこともなければキスもしたことがない。
俺としては、あれやこれやしてみたいんだけど仕方がない。
本番のお付き合いじゃないしね。
「それから」
何故かイルカ先生の顔が、ぽっと赤くなった。
「それから、ええと」
さっきまで強気で堂々としていたのに今は弱気な感じで頼りない。
「ええと」
視線を泳がせて何を言おうとしているイルカ先生は可愛く見える。
可愛いイルカ先生は俺の愛のフィルター通してみると可愛さ百割増しになるけど。
イルカ先生の背後に薔薇の花ではなくてチューリップが見えちゃうけど。
ま、それは置いておいてだな。
俺は目の前のイルカ先生に集中した。
こんなイルカ先生を見逃してはならない。
しっかり記憶しなければ。
「ですから」
イルカ先生は深呼吸してから一気に言い放った。
「お付き合いするかどうかのお付き合いをステップアップさせて本当のお付き合いをしませんか!」
「え」
「これが三つ目のプ、プレゼントってことで」
イルカ先生は、くるっと踵を返した。
「誕生日当日までに考えておいてください!」
叫ぶように言うと俺の前から走り去ってしまった、脱兎のごとく。
呆然としている俺を残して。
俺は本当に呆然としていた。
イルカ先生の言葉に。
びっくりした、まさかあんなプレゼントがあるなんて。
「あんなプレゼントがあるなんて」
言葉に出すと実感が沸いてくる。
本当のお付き合いだって!
嬉しい!
俺の選択は、もう決っている。
三つ目の本当のお付き合いをするんだ、イルカ先生と。
夢にまで見たイルカ先生とのお付き合い!
でも、と俺はふと考えた。
好きな人との交換日記も夢だった。
好きな人の家の合鍵を貰うのも夢だった。
イルカ先生にプレゼントしてもらうのは決っているものの、長年の夢に対して心は揺れ動いてしまう。
もうすぐ俺の誕生日。
悩める誕生日になりそうだった。
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